蓮さんとお父様の間には、きっとこれまで会話が無さ過ぎただけで、2人もっと歩み寄ればこれから仲良くなれるはず。
心菜はそう思い、嬉しそうに微笑み2人を見つめている。

蓮はそんな心菜の気持ちを読み取るが、こればかりは直ぐにどうこう出来るものでも無いぞと、苦笑いする。

生まれてこのかた、父に対して素で接した事が無かったから、今更心を開いて話すなんて事はとても不可能に近い。心菜の望みは叶えてやりたいが、これに関してはどうしてやる事も出来ないなと蓮は思う。

「蓮は、こっちで何をしているのだ?」
不意に父が蓮に話しかける。

「曲の制作を主に…。
後は心菜のサポートに徹してます。
彼女はギリギリまで看護師として働きたいと望んでいるので。」
言葉少なにそう伝える。

心菜の働きたい意思は固く蓮にしてみれば心配で仕方が無い。だけど同時に、学ぶ歩みを止めない心菜に、尊敬し誇らしくも思っている。

カフェで働いていた時は変わってあげられる事も出来たが、さすがに看護師業は無理だ。

余りにサポート出来る事は少ないとヤキモキ思いながらも、家事全般は自分の仕事だと、この家に引っ越して来てから使命のように思っている。

「身重の体で働くなんて大変だろう。経済的に困っている訳でも無いのだから、仕事は辞めて家庭に入ったらどうなんだ。」
父も、心菜の身体を心配しそう言ってくる。

「私、看護師になったばかりでまだまだ新米なんです。立派な看護師になるのが夢なので、経験を積んでいきたいんです。
これは、私のわがままなので…蓮さんには心配ばかりかけてしまいますが…。」

申し訳なさそうに蓮を見る。

「頑張り過ぎないように見張ってるますから、大丈夫です。」
蓮は心菜に微笑み、食事を再開する。

2人がお互いを尊重し思いやるところを目の当たりにして、父は少し笑い咎めるべきでは無いなと納得する。

「まぁ、余り無理をしない事だ。1人の身体じゃないんだから。」
そう言う父を垣間見ながら、蓮は初めて人間らしい父を見たと1人驚いていた。

「ありがとうございます。気を付けて働きたいと思います。」
3人共にそれぞれの想いを胸に、食事会は無事に終わる。

帰り際、父が蓮にボソボソと話しかける。

「今まで、仕事ばかりで家庭を顧みなかった事、申し訳無かったと思っている。これからは、家族として接していけれたらと思う。」

蓮は凝視して今日1番の驚きを見せる。

「そう…ですか…。
それで彼女が喜ぶなら善処します。」
到底親子の会話では無いが、蓮としてはこれまでに無く歩み寄っているつもりだ。

「心菜さん今夜は手料理をありがとう、美味しかった。次は日本で会える事を楽しみにしているよ。」
父はそう言って帰って行った。