夕方17時まで仕事をこなし2人で帰路に着く。

帰り道いつもの様に手を繋ぎ歩くが、2人の間に会話も無く、ただ、淡々と歩く蓮に引かれて心菜はついて行く事しか出来ないでいた。

ずっと機嫌が悪そうな蓮を前にして、何をどう話したら良いのか…思い悩んで心菜も俯きがちだ。

ライアンとの昼間の出来事で、蓮の気持ちは未だ燻り続けていた。この苛立ちは決して心菜のせいでは無いのはよく分かっている。

そう心菜に伝えなければと思うのに、かける言葉が見つからず、どう言うべきか考えあぐねているうちに、アパートメントの部屋に着いてしまう。

部屋に入るなり心菜が、
「蓮さん…Dr.ライアンとの事に巻き込んじゃってごめんなさい。」
今にも泣き出しそうな顔で言ってくる。

「いや…心菜は何も悪く無い。
俺の事は気にしなくていい。つまらない嫉妬で燻ってるだけだ。」
そう伝えてぎゅっと抱きしめる。

腕の中でグスッと涙ぐむ心菜に庇護欲を掻き立てられる。

「心菜の中でDr.ライアンは恩人のような存在なんだと言う事も分かっている。泣かなくていい。」

蓮は優しく心菜の背中を撫ぜて、落ち着かせる。

だけど心菜は、いろいろな思いが溢れ出て止めようとすればするほど嗚咽が漏れてしまう。

妊娠中はホルモンバランスのせいで情緒不安定になると言うから、泣きたい時は我慢しないで泣くべきだと蓮は思い、そっと抱き上げ横抱きのままソファに座り、心菜が落ち着くまで抱きしめ続けた。

しばらくそうしていると、不思議と蓮自身も心が洗われてくる気がして、燻っていた嫉妬心や醜い独占欲が流されていく。