「蓮さん…大丈夫でしたか?」

客席のテーブルの上を片付けていた心菜が、俺を見つけて駆け寄って来る。

「大丈夫。片付け手伝う。」
俺は何事もなかったように心菜を手伝う。

彼女はライアンが気になるようで、カフェの外をチラチラ観ている。
俺はそんな彼女が気になりつい目で追ってしまう。

ほんの少しでも…あの男に心を奪われた事があっただろうか?
俺のいない未来を想像した事があったか…?

そう考えるだけでどうにもならない嫉妬心が頭を支配する。

心菜の代わりに皿洗いをしながら、頭の半分以上はそんな思いで一杯になっていく。

だけど俺の醜い嫉妬心なんて気付く余地も無い彼女は、アイツが置いて行った花束を花瓶に生けて、レジ側のカウンターに置いている。

「何やってんだ?」
つい、イラつきが抑えられなくて棘のある言い方をしてしまう。

「お花に罪はないでしょ。
もらって帰る訳にはいかないけど…せめてお店に飾って置こうと思って。」
彼女が寂しそうに花を見つめる。

「…少しでも惹かれてたか?」
嫉妬心に駆られて、皿洗いの手を止めず俺はついそんな事を呟いてしまう。

エッ!?と言う顔で彼女が振り向きバタバタと俺に近付いて来る。

「私は、Dr.ライアンには申し訳ないけど…
この子と2人どうやって生きていこうかと、そればかり考えてた。」
彼女は、今にも泣きそうな顔で俺に訴えてくる。

「…ごめん、つまらない嫉妬をした。」

俺は濡れた手を素早くエプロンで拭い彼女を抱きしめる。

「れ、蓮さん⁈仕事中…。」
心菜は驚き慌てて俺の胸を押し腕の中から逃れ、周りをキョロキョロと挙動不審に盗み見る。

俺はフッと笑い、冷静さを取り戻し何事もなかったかのように皿洗いを再開した。