(蓮side)

俺だってライアンみたいに医者だったら…
そうすりゃ心菜の悩みも分かってやれたし、共感出来ただろう。

住む世界が違う事ぐらい痛いほど分かっている。心菜がきっとこの先苦労する事だって…。

だけど、今更手離せない。

愛しているよりも、もっと深く思っているんだ。この気持ちを例えるならば…

ああ…そうだ。
いつか病院の屋上で、心菜が何気なく言った言葉が1番しっくりくる。

『私は蓮さんの歯車になりたい。歯車を動かすネジだって構いまわない。あなたが自由に歩けるように…。』

あれはイチ患者に過ぎなかった俺に向けた言葉だっただろうけど…。

あの言葉が、自分の運命から抗う事を恐れていた俺の気持ちを大きく揺さぶった。

『空が…あるじゃないですか。
蓮さんの背中には羽根が生えています。
この広い空を自由に羽ばたいて飛べるはずです。何を恐れているんですか?』

そう今、事務所から独立して親からも自由になった俺は、あの時足りなかった物を見つけたんだ。

足りなかったのは、自由に飛べる翼だった。

そして、彼女こそが俺の翼だと気付いたんだ。

あの時、心菜は背中を押してあげると言っていたけれど…。

俺は心菜という翼がいなければ、自由に飛び回る事も出来ない臆病者だ。

言うならば、心菜は俺の一部なんだ。

俺はどうしようもないイライラをひた隠し、心菜が待つカフェに戻る。