ライアンはそれでも苛立ちを隠せず、

『俺は、ココが俺を愛してくれるなら、お腹の子の父親になるつもりでいた。なのに…あんたが来たから…。』

蓮はひと息フーッと吐き、ライアンを見据える。
『心菜にその気持ちを伝えたのか?』

『…今、伝えたばかりだ…。』
ライアンは後手になった事を悔やんでならない。蓮が来る前に伝えていたら、何か変わっていたかも知れない。

『悪いが縁が無かったと思ってくれ。
心菜は患者の気持ちを察するのは得意なのに、恋愛感情にはかなり鈍くて俺も苦労してるんだ。』
蓮が苦笑いする。

同じ人を愛した男として、少しばかりの同情をする。

『貴方には感謝はしている。
しかし、俺も心菜を失う訳にはいかない。もはや彼女は俺の一部なんだ。諦めてくれ。』

蓮は話しは終わったとばかりに、ライアンに背中を向けてその場を去ろうとする。

ライアンはまだ納得はいっていないとばかりに、蓮の肩を強引に掴み引き留める。

『待てよ!
あんた日本で有名な歌手だよな?
あんたとココじゃ、住む世界が違い過ぎる。この先、ココが辛い思いをするのが目に見えている。そんな奴にココを任せる訳にはいかない。』

ライアンは北條蓮という人物について、良く無い印象を持っていた。

日本に留学中、彼の歌を気に入ってよく聴いていたのだが、友達から横暴でパワハラまがいの人間なんだと、噂を聞いた事があったからだ。

『あんたは世間に良く無い噂が流れていた。横暴で冷酷な人間だって、そんな奴にココを託せる訳が無い!』

今にも蓮の胸ぐらを掴むかという勢いだ。

『貴方もそんな噂に踊らされているのか。自分の目で見て確かめてくれれば良い。
それで、もし心菜に相応しくない男だと見做すのなら、その時は力ずくで向かって来い。』
蓮は沈着冷静にそう言い放って、そのまま店に戻って行った。