「俺が欲しいんだ。可愛い奥さんに指輪も用意できないなんて嫌なんだよ」


瞳をたわませる樹くんが、「だから選んで」と私の頭を撫でる。甘い仕草に、私の鼓動は簡単に高鳴った。
そんな私たちを見ていた女性スタッフは、頬をほんのりと赤らめていた。


私が頷いてしまったのは、きっと不可抗力。
けれど、満足そうに笑みを浮かべる彼を見ていると、もう一度『いらない』とは言えなかった。


それでも、婚約指輪はなんとか断った。樹くんは不満そうにしつつも「今日は芽衣の言う通りにするよ」と折れてくれた。


「そういえば、芽衣って仕事中にジュエリーはつけられるのか?」

「うん。食材を素手で触るときには、手袋をつけるから。結婚指輪は大丈夫だし、華美じゃなければネックレスやピアスも大丈夫だよ。ブレスレットは引っかかると危ないからダメなんだけどね」

「じゃあ、好きなものを選んで」


ハイブランドのジュエリーショップで、好きなものを……なんて言われても困る。


一番安価な指輪にしようとしたけれど、そもそも金額が表示されていない。どうしたものかと戸惑っていると、彼がクスリと笑った。