幼い頃に普通に見せていた素顔は、大人になった今はアラサーのスッピンで。部屋着だって、可愛いものよりもラフなものが多い。


樹くんの前では意識して人気のルームウェアブランドのものを着るようにしているものの、彼が帰ってこないとわかっているときにはラクさを優先してしまう。


ひとり暮らしの期間はそこそこ長いし、家事は人並程度にはできる。
けれど、便利な家電が多い令和の時代に、そんなものは特に自慢できるようなことじゃない。


むしろ、手入れが行き届いたこの家を見ていると、多忙な彼の方が家事能力はあるんじゃないかと思っているくらいだ。


(やっぱり、樹くんとあんまり顔を合わせないで済むのはよかったのかも。毎日会ったり、長時間一緒にいたりすると、ずっと緊張してなきゃいけないかもだし……。まあ、樹くんはそうなっても平気なんだろうけど……)


樹くんは、同居を始めても至って落ち着いている。
なにをするにも余裕そうだし、私と顔を合わせても普通そのもの。まるで、子どもの頃となんら変わりはない。


彼がいかに私を意識していないのか、ひしひしと感じていた。


(やっぱり、樹くんは責任感から結婚してくれてたんだろうな……)


今さらになって、後悔が押し寄せてきそうになる。