「怒るなよ」

「怒ってません!」

「怒ってる」

「それを決めるのは私です」

「確かに。じゃあ教えてやるよ」

「なにをですか?」

「なんで俺が泣きそうだったか教えてやるから機嫌直せ」

「え、」




「知りたいだろ?」なんて、余裕たっぷりな顔に見下ろされ、それに反応してしまった自分に腹が立つ。

どうせまた適当なことをペラペラと並べられて終わるのだ。




「私の見間違いだったので、もういいです」

「でも見間違いだったのか、本当だったのか知ってるのは俺だけなんだけど」

「屁理屈」

「お前もな」




にやりと笑う佐倉さん。さっきの仕返しをいとも簡単に受けた私。




「佐倉さんのその私をおちょくるような態度で分かります」

「別におちょくってないだろ」




言い合いの中。ふと冷静になんでこんな密着状態のまま会話を続けているんだと、我にかえった。「とりあえず離してください」とお願いすれば「逃げるから無理」と、私は昆虫かなにかですか?と問いたくなるような扱い。