「なんだそれ」

「だって、さっきも今も、いまにも泣き出しそうな表情をされていたので。それが気になって」

「だから、戻ってきたと?」

「……はい」




答えれば佐倉さんは絡めた指先に力を込めて、グッと私の腕ごと自分の方へ引き寄せた。突然引かれてバランスを崩した私は佐倉さんの胸にダイブする。


おでこを勢いよくぶつけたが、びくともしない佐倉さんに受け止められた。


突然なにをするんだと下から綺麗なお顔を見上げれば、佐倉さんは蠱惑的に微笑んだ。

あ、なんか意地悪な顔だ。なんて思って、密着した身体を離そうと身をよじったが捕まっている右手がそれを阻止する。


佐倉さんの唇が意地悪に動いた。




「じゃあ、俺が泣いたら、もっと俺のこと構ってくれる?」

「な、なに言ってるんですか!ふざけないでください」

「大真面目だけど」




恥ずかしげもなくそんなこと言わないでほしい。言われているこっちが恥ずかしくなる。




「もう、心配して損しました!大変元気そうなので私は失礼します!」




泣きそうに見えたのはやっぱり気のせいだったんだ。わざわざ戻ってきたのに、こんな仕打ちあんまりだ。あのまま森坂店長と帰ってしまえばよかった。