昼休み残り時間わずか10分。


確かこの日って、先輩次移動教室だったはず…!


もう教室出ちゃったかな…!?


2年生の教室の廊下を駆け走り、先輩の教室へひょこっと覗き見する。


(先輩、いない…)


てっきり先輩のお友達さんとおしゃべりしてると思ったんだけど…。


「あれ?小桜さん?」


男の声がして振り返ってみると、そこには先輩の親友である柊先輩がいた。


「柊先輩…!」


「櫂にまたなんか用事か?」


「!?なんでそれ知ってるんですか…!」


「だって小桜さんってなんだかんだこのクラスの常連だしな」


ははっと冗談ぶりな軽い声をして笑う柊先輩。


常連になってるんだ私…あはは。


私もそれに連なって、心の中で苦笑いをした。


「えっと、それで富谷先輩どこにいるか知っていますか…?」


「…知ってるよ」


「本当ですか…!?」


「もちろん」


先輩、知ってるんだ…!さすが親友さんだ!


よかったぁ…っ!


「ありがとうございます…!私すぐ行…」


足を踏み出した時、パシッと柊先輩に腕を掴まれた。


「……え?あの…」


「待って」


「柊、先輩…?」


「…俺小桜さんのこと本気で好きだよ。櫂よりも愛せる自信がある。櫂じゃなくて俺を好きになって」


柊、先輩っ…。


真っ直ぐ私を見つめてくる柊先輩の真剣な目。


さっきの龍輝と同じだっ…。


あの後、龍輝は私を笑顔で見送ってくれた。けど、本当の龍輝は泣き虫なこと知ってる。


幼馴染をずっとやってきたから、分かる。


だからって、龍輝の気持ちに応えることはできなかった。


私が富谷先輩しか見えないから。


先輩の目が本気だと分かり、グッと下唇を食いしばって、覚悟を決めた。


「…っ、ごめんなさい。私誰に何をいわれようと富谷先輩が好きなんです。柊先輩の気持ちを踏みにじってごめんなさいっ…。


けど…っ、好きになってくれてありがとうございます…!すごく嬉しかったです。私も、先輩みたいにぶつかってきます…!」


「…櫂ならさっき職員室に呼ばれた。行っておいで。告白、頑張って。応援してるから」


「柊先輩…」


「ほら、早く。休み時間終わっちゃうよ」


まるでさっきの告白はなく何事もなかったことかのように振る舞う柊先輩。