「あの時は、環奈さんの心を傷つけてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

「颯介君、頭を上げてくれ。君の誠意は十分伝わっている」

顔を上げた俺を父親が見据える。

「あれからもう13年だ。13年もの間、環奈のことを想ってくれていたんだね」

「はい、僕には環奈さん以外考えられませんから」

「環奈は幸せ者だぁねぇ」

引戸の間から老婆がひょっこり顔を出し、穏やかな笑みを浮かべている。環奈の祖母だろうか?

「初めまして、熊野御堂颯介と申します」

「あらまぁ、男前。私がお嫁にいこうかねぇ」

「お袋、何をふざけてるんだ」

「あいたぁ〜怒られた。んだな、不倫はいかん」

「そういう話じゃない」

「て言うてもよぉ、こんな好青年、誰にも渡したくないやぁねぇ。環奈ならしかたねぇけど。颯介さんて言うたかなぁ」

「はい」

「環奈はなぁ、陸上の世界大会を生で観たい言うよった。ほんでな、ローストビーフっちゅうもんが大好物なんよ。アイスクリームにも目がないねぇ。確か、誕生日にゃあ、大っきな薔薇の花束が欲しい言いよったなぁ」

「おかあさん、何を」

お祖母さんがウインクで母親を制止する。

「そういやぁ、来年の環奈の誕生日頃には日本で大会があるんやなかったかなぁ……どれどれ、私もお茶でも飲もうかねぇ」

「あ、私が淹れますから、おかあさんは座っていてください」

「ありがとうねぇ、よっこらしょっと。生きとる間に環奈の花嫁姿が見れそうやなぁ……そうじやったそうじゃった。大切なこと言うの忘れるとこじゃった。颯介さんよぉ、婚約指輪はダイヤモンドでなくて、ペリドットとかなんとかいうもんの方が喜ぶと思うでねぇ」

「はい!心得ました。ありがとうございます!」