女の子の匂い。


洗面所に入って、菫は一瞬顔を歪めた。桃の甘ったるい香りが鼻を指す。


桜が最近付き合い出した、大学生の彼氏が誕生日にくれた香水の匂いだ。


桜が愛読しているファッション誌で紹介されていて、前々から欲しがっていたのだ。


「あー……」


この匂い苦手。香水とかそういう類が苦手なのもあるけど……


菫は桜の彼氏を思い出して、もう一度顔を歪めた。


あの男があまりいけ好かない。


そんな男が渡したものだから、余計に苦手意識が増すのかも。


一度、菫は桜の彼氏と会ったことがあった。桜がどうしても会わせたいっていうので、ファミレスでご飯を食べた。


会った瞬間、菫は「こいつだけは無理。」と、思った。


俺様的態度で、まるで桜を所有物みたいに扱う。


まあ、見た目は悪くはない。


短く切り揃えワックスで遊ばせた髪とか、特徴的なパーツはないけれど、全体的にバランスのとれた顔とか、服だってカーディガンにジーパンで清潔感があった。


でも無理。


無駄に語尾を伸ばした話し方とか、高校生なんてガキみたいな扱いとか。


だけど……それぐらいなら菫も彼を拒絶するつもりはなかった。


桜が好きで選んだ人だから。


極め付けの事件が起こったのは帰る間際。


桜がお手洗いに行っている時だった。