「菫ちゃんおはよう。」


桜のいつもと変わらない笑顔を見て、菫は安堵の息を吐いた。


「今日はね、菫ちゃんの好きな唐揚げ弁当を作ったの。」


お昼ご飯のお弁当は桜が作ることが多かった。


二人の両親はどちらも朝が早く、二人が登校する頃には、仕事に出ていた。


父親は広告代理店の営業を、母親は看護師をしていた。二人は大学の同級生で、そのまま結婚した。


「菫ちゃんには唐揚げ5個入れたからね。それからお野菜も食べないとダメだから、ほうれん草のお浸しにレタスにトマトに……」

「はいはい。分かったから。ありがとう。」


菫は桜の頭を撫でて、洗面所に向かった。


桜のお弁当の説明は朝の日課で、菫が制さなかったら、延々と続いた。


だから、菫は桜の頭をなでて笑みを見せた。それが桜の望んでいることだったから。



桜にとって、菫の笑顔はこの家で一番のご褒美であったから。