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学校が終わると、週3日は桜はバイトに行っていた。学校から歩いて15分程。家に向かう途中で、横道にそれ、路地に入り真っ直ぐ進むとその店はある。


昔ながらの喫茶店で、入り口には紺色の板に山吹色でcoffeeという文字とマグカップの絵が描かれた看板が出ている。木目調のドアを開けたらチンチンとベルが鳴るのも、昔ながらといったところだ。


桜がどうしてここの喫茶店で働くようになったかと言うと、「バイトを始めたい。」と両親に訴えたら、父親が猛反対したからだ。


ファミレスやコンビニなど、多様な客層が来る場所に未成年の娘を働かして、もし何かあったら……


桜に対しては若干過保護の父親は、すんなりと保護者同意書に印を押すことはなかった。


桜は珍しく父親に反発し、その日一日中部屋に引きこもった。


父親からしたら、そんな娘の反抗期は未経験で、なんとか出てきて欲しい思いから、自分の知人が店をしている喫茶店なら良いと許可を出したのだ。


あの時、どうしてあそこまで頑なにバイトをしたいと言ったのか……


親に気兼ねなく使えるお金が欲しいのも桜にはあったが、自分という存在を誰も知らない場所に行きたかった。


家族思いで友達に囲まれて笑顔を絶やさず優しい自分。それが本当の自分なのか知りたかった。


真っ白な場所で一からスタートしてみたかった。