くろが牛乳を飲んでいる間に、桜と成海は再びベンチに座ってお昼を食べた。成海は菓子パンを2つほど食堂で購入していた。


「お昼それだけ?」


桜が心配して聞くと、


「今日はたまたま。10時に内緒で空き教室でラーメン食べたから。」

「ええっ?それ本当?」

「本当だよ。俺と猛、2時間目いなかったでしょ?」


猛というのは、成海がクラスで一番親しくしている松田猛(マツダタケル)のことだ。


「確かに……なんか男の子っておかしい。」


桜はクスクスと笑ってしまった。女の子には想像もできないことをするんだもん。


「にゃー!」


桜と成海が話しで盛り上がっていると、忘れないでと言いたげに、成海の膝にくろが飛び乗ってきた。


「お、全部飲んだか?」


成海は制服に猫の毛が付くことなど御構い無しで、くろの背中を撫でている。

「懐いているんだね。」

「どこかで人間と関わったことがあるんじゃないかな。」


桜も手を伸ばして、くろの喉の辺りを撫でてやると、噛みつきもせず嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。


「宮田くんは、くろに会うためにお昼休みにここに来てるんだ。」

「そう。癒されにきてるの。」


冗談めかして成海は言っていたが、桜は一瞬本心ではないかと思った。みんなに気を配るのって、簡単に出来ることじゃない。


「さて、神谷ご飯食べた?」

「あ、うん。」

「じゃあ、教室に戻ろうか。5時間目が始まる。」


ほら……今だって。くろと遊んでいたのもあるけど、気を遣って、食べ終わるのを待っていたんだよね。


桜はフルフルと頭を振った。そうじゃないと泣いてしまうような気がしていた。