「神谷は苺ミルクって感じだもんなー。」


成海はベンチから立ち上がって、大きく伸びをした。


「何それー?」

「イメージ。だってコーヒーブラックとか飲んでるって言われたら、ギャップあり過ぎて困る。」

「あはは。確かにコーヒーブラックは苦手。」

「すーちゃんなら、飲んでるって言われても納得するけど。」


もう一度、桜の箸を持つ手が止まった。


「すーちゃん?」

「ああ、神谷の双子の片割れさん、菫ちゃんのこと。この間、委員会で会ったよ。」


……二人、話ししたんだ。菫ちゃん、宮田くんと仲良くなれたんだね……男の子嫌だって言ってたけど。


「それよりさ、宮田くんはどうして一人?友達は?」


いつもクラスの男の子たちとワイワイご飯を食べていたはずだ。


「今日はたまたま。神谷、今から見ること内緒にしといてね。」

「えっ?」


桜が成海の言う意味を理解する前に、成海はベンチの裏の植え込みにの傍にしゃがんだ。


そうして紙袋から、牛乳と丸い器の紙皿を取り出し、牛乳を紙皿に流し入れた。


牛乳が入って、すぐに植え込みの中から一匹の黒い猫がノソノソと出てきた。猫は尻尾をピンと伸ばし、耳の先端が少し内側にカールしていた。


「この猫……?」


思わぬ猫の登場に、桜はお弁当をベンチに置いて、成海の隣にしゃがみ込んだ。


「くろ。って俺が名付けたんだけど。1週間に1回ぐらいここにいるの。この間、初めて会ったんだけど、牛乳をあげたら美味しそうに飲んだから。」

「野良猫?」

「分かんない。でも、食べ物を欲しがったりはしないよ。」


くろと呼ばれたその猫は、赤い舌でちびちびと牛乳を舐めている。