だけどそれがわからないから怖くなる。
急激に居心地が悪くなって、ベランダで食事をしようかと思案しはじめたときだった。

「中宮さん」
後ろから華やかな声が聞こえてきて振り向くと、そこには梓ちゃんが立っていた。

営業部ということで紺色のスーツ姿の梓ちゃんはそこに立っているだけで色気とオーラが圧倒的だ。
自分よりも年下だなんて到底思えない存在感に返事をするのも忘れてしまう。

「な、なに?」
無視されていると思われても困るのでどうにか返事をすると、梓ちゃんがちらりとマイちゃんへ視線を向けた。

それだけで『席を外せ』と言っているのがわかるけれど、素直に従うマイちゃんではない。
梓ちゃんからの視線に気が付かないふりをして居座るつもりまんまんだ。

「マイちゃん、悪いけどちょっと席を外してくれないかな?」

仕方ないから優莉奈が気を利かせてそう言った。
じゃないと梓ちゃんが話できなさそうだ。