「違う。そんなんじゃない」
「じゃあ、実際にいる女性の名前ですか? それはもう最悪ですねぇ」

「うぅっ」
図星だったらしい。
俊介はまたキーボードに顔ごと突っ伏してしまった。

さっきから空白の画面に意味不明な文字が表示され続けている。

「で、それって誰なんですぅ? 酔っ払った時にポロッと出ちゃう名前って結構重要だったりするんですよねぇ。谷川さんの深層心理に巣食ってる人なんですからぁ」

巣食っているという言い方はどうかと思うけれど、これも否定できない。
意識して出す名前よりも自然と出てくる名前の人物とのほうが、心の距離が近そうだ。

ずっとキーボードに突っ伏していた俊介が勢いよく顔をあげた。
額にキーボードの痕がクッキリと残っているけれど、それが気にならないくらいに赤面している。

「と、とにかくそのせいで喧嘩になったんだってこと! それだけ!」