柊哉side

 優茉の事を探し回っていると、外のゴミ置き場へ繋がるひと気のない薄暗い廊下から、女性の声が聞こえてきた。

 廊下の角を曲がらずそっと覗くと、派手なコートを羽織った女性と優茉の姿があった。

 その女性は、優茉に対して敵意を剥き出しにし、見下すようにキツイ言葉を並べている。
 すぐ駆け寄ろうとしたその時、優茉の震えるような大きな声に思わず足が止まった。

 そして彼女が必死に紡いだのは、俺へのとても温かい気持ちだった。盛大な告白のようなその言葉たちに、優茉への思いが込み上げてきたが、その後の女性の言葉にハッとし反射的に駆け出した。
 しかし、優茉が突き飛ばされるのを阻止できず、すぐに出ていかなかったことを激しく悔やんだ。

 とにかく社長の娘には金輪際彼女に近づかないように言い、すぐに加賀美製薬へ話をつけに行く事を決めた。

 ひとまず彼女の身体に怪我がない事を確認し、仕事に戻ると言うのでナースステーションまで送り天宮さんにお礼を伝えると、優茉はキョトンとしていたが、彼女は安堵した顔をしていた。

 とにかくすぐにでも話をつけようと、優茉と別れてから加賀美社長に電話をすると、十八時には本社に戻るそうなのでこちらが出向いて話をさせてもらう事になった。


 優茉はその後いつも通りに仕事を終え帰ろうとしていたが、ロッカー室の前で彼女を待ち出てきたところを捕まえ俺の車まで連れて行った。

 「あ、あの? 先生?」

 「とりあえず優茉の家まで送る。俺は少し用事があるから、終わったらまた迎えに行く。だから、その間に荷物を用意しておいて欲しい」

 「え?それは、どういう...?」

 「今日はちゃんと話がしたい。また家に戻ってきてくれないか?」

 優茉は少し困った顔をし、探るような目でちらっとこちらを見る。

 「いいんですか...?本当に、また先生のお家に帰っても...」

 「もちろん。俺はそれを望んでいるから」

 そこまで言うと、優茉は少し顔を赤くして俯きがちに「じゃあ、待っています。迎えにきてくれるのを」と小さい声でそう言ってくれた。

 「必ず連絡するから待っていて」

 優茉のマンションまで送り、中に入ったのを見届けてから俺は加賀美製薬の本社へと車を走らせた。