今日も先生の帰りは遅いので、夕飯はいらない。
 頭がいっぱいで食欲もなく、何か作る気にもならないので、お昼に食べ損ねたお弁当を家で温めて食べた。

 いつも通り、軽く勉強してからシャワーを浴びて、明日のお弁当の用意をしてからベッドに入る。

 だけどその間も、ずっと頭の中では彼女の言葉がリピートされている。
 一方的な物言いだし、人を蔑むような言い方はどうしても受け入れられない。

 それに、彼女は先生のスペックと見た目に一目惚れしただけ。全く内面を見ようともしていない。

 そんな関係で、幸せになれるはずないのに...。

 彼女の言う通り、私と一緒にいても先生には何のメリットもないのは確か。でも、先生はそんな理由で結婚相手を選ぶような人じゃない。
 それに、私に両親がいない事は別に関係ない...。いや、そもそもお父さんはいるし。そんな個人情報まで調べられて、あんな言い方をされるのはさすがに不愉快...。


 あー、もう。 全然寝られる気がしない。

 ベッドに入ってから、落ち込んだりイライラしたり悲しかったり不安だったりいろんな感情がぐるぐると回って、全く眠気はやってこない。

 気がつけば午前三時を過ぎていた。先生、今日も帰ってこないのかな?

 会いたい...

 会って、顔をみてちゃんと話がしたいのに...


 先生のことを考え、やっと眠れそうと微睡んでいると、ガチャっと玄関の扉が開く音が聞こえたような気がした。
 半分くらいの意識でぼんやりと、もしかして先生かな?と思いながらも身体は動かない。

 そのままうとうとしていると、頭を優しく撫でられているような感覚に、少しだけ瞼を上げた。

 すると、目の前にはずっと見たかった先生の顔がある。
 ぼーっとした頭でただ見つめる私に彼は、にこっと優しく微笑んでくれる。

 「ごめん、起こして。おやすみ、優茉」

 先生、帰ってきたんだ...

 やっと頭が状況を理解して、ただただ会えた嬉しさが溢れてきて、気づけば自分から先生の胸に擦り寄っていた。腕が背中にまわりぐっと引き寄せられて、先生の温もりに包まれる。

 よかった、抱きしめてもらえた。

 安心感から涙が溢れたけれど、気づかれないようにそのまま胸に顔をくっつけ、先生のドクンドクンと規則正しい鼓動を聞きながら目を閉じた。