柊哉side
程よくお腹が満たされた後は、またゆっくりと景色を眺めながら歩く。
山下公園に着くと、何かのイベントがやっていたようでかなり大勢の人がいて、駅に向かっているのか、一気に人の波にのまれそうになり押されてよろける優茉の手をパッと掴んで引き寄せる。
思わず見つめ合ってから、なんとか人混みを抜け出した。
「すごい人の波だったな。大丈夫?」
「はい、ありがとうございます...。あの、もう、大丈夫ですよ?」
「ん? ああ、せっかくだからあっちの船が見える辺りまで行こう」
そう言って優茉の手を掴んだまま歩き、ベンチに座ったところで離した。
海を眺めながらゆっくりするのも新鮮で、日々の忙しさから少し現実逃避した気分だ。
「私、ここも初めてきました。緑も海もあって気持ちがいい所ですね。先生は来たことありましたか?」
「いや、俺も仕事じゃなく横浜に来たのは初めてだと思う。海を見ながらゆっくり話をするなんて、贅沢だな」
「いつもお忙しいですからね。貴重なお休みなのに、連れてきていただいてありがとうございます」
「いや、一人じゃ絶対に来ないし優茉と来られて嬉しいよ。俺の方こそありがとう」
海を眺め少しの沈黙が落ち、俺は気になっていた事を聞いてみた。
「ねぇ、優茉。言いたくなければ言わなくていいんだけど、前にお母さんは亡くなられたって言っていたよね?じゃあ、お父さんは?」
「はい、母は私が赤ちゃんの時に。父はいますよ。ただ、仕事が忙しくて私が幼稚園の頃から海外赴任をしているので、ずっと祖父母の家で暮らしていました。
日本に帰ってくるのも年に一.二回ほどであまり連絡も取っていないので、正直今でも父とはどう接していいのかわからないんです。親子なのにおかしいですよね?」
そう自傷気味に笑う優茉。
「いや、家族の形はそれぞれだから。おかしくはないと思うよ」
たしかあの時も、海外にいると言っていた。今でもそうなのか...
そう考えていると、今度は優茉が遠慮がちに質問を返す。
「あの、先生は...?院長とは、少し距離を置かれているんですか...?」
「ああ、俺も正直父親との接し方があまりわからないんだ。
俺も...、子どもの頃に母を亡くしているんだ。元々忙しい人だったし、同じ家に住んでいても会う事はあまりなくて、父親らしい事をしてもらった記憶もない。だから今でも、父親というよりは院長という感じで、ほとんど業務的な話しかしないんだ」
「えっ...」と驚いた表情で、言葉を失っている。
「...すみません。そうとは知らずに、詮索するような事を聞いてしまって...」
「いや、俺ももう母親のことはだいぶ経つから傷は癒えているし、先に家族の事を聞いたのは俺の方だから。
実は、一応同棲しているわけだから、優茉のお父さんに挨拶しなければと思っていたんだ。でも海外にいるのなら、すぐには難しそうだな...」
「い、いえ!挨拶なんて大丈夫だと思います。一時的ですし、たぶん父に伝えたところで、特に何もないと思いますし...」
優茉の言葉は少し気にはなったが、少し暗くなってしまった空気を変えるため一旦この話は終わりにする事にした。
「そうか、じゃあとりあえず一旦考えるよ。それより少し冷えてきたし、どこかで温かいものでも飲もう」
そう言って立ち上がり、優茉に右手を差し出す。少し躊躇っていたが、俺の手を取ってくれたのでそのまま繋いで歩き始めた。
彼女が行きたかったという老舗洋菓子店に入り、紅茶とケーキを頼んで温まった。ラム酒が香るチョコレートケーキは、甘すぎずとても美味しかった。
その後、赤煉瓦のあたりで少しショッピングをして外に出ると、もう陽が沈み始め辺りは薄暗くイルミネーションの光が灯り始めていた。
この後どうするか決めていなかったので、優茉に尋ねると少し恥ずかしそうに「あの、あれに乗りたいです...。 嫌、ですか?」と大きな観覧車を指差して言う。
少し意外ではあったが、これも小説に出てきたのだろうか?言わば聖地巡礼のようなものか?
「じゃあ、乗りに行こうか」
そう言うと「はい!」とパァっと嬉しそうな笑顔になる優茉はとても可愛かった。
程よくお腹が満たされた後は、またゆっくりと景色を眺めながら歩く。
山下公園に着くと、何かのイベントがやっていたようでかなり大勢の人がいて、駅に向かっているのか、一気に人の波にのまれそうになり押されてよろける優茉の手をパッと掴んで引き寄せる。
思わず見つめ合ってから、なんとか人混みを抜け出した。
「すごい人の波だったな。大丈夫?」
「はい、ありがとうございます...。あの、もう、大丈夫ですよ?」
「ん? ああ、せっかくだからあっちの船が見える辺りまで行こう」
そう言って優茉の手を掴んだまま歩き、ベンチに座ったところで離した。
海を眺めながらゆっくりするのも新鮮で、日々の忙しさから少し現実逃避した気分だ。
「私、ここも初めてきました。緑も海もあって気持ちがいい所ですね。先生は来たことありましたか?」
「いや、俺も仕事じゃなく横浜に来たのは初めてだと思う。海を見ながらゆっくり話をするなんて、贅沢だな」
「いつもお忙しいですからね。貴重なお休みなのに、連れてきていただいてありがとうございます」
「いや、一人じゃ絶対に来ないし優茉と来られて嬉しいよ。俺の方こそありがとう」
海を眺め少しの沈黙が落ち、俺は気になっていた事を聞いてみた。
「ねぇ、優茉。言いたくなければ言わなくていいんだけど、前にお母さんは亡くなられたって言っていたよね?じゃあ、お父さんは?」
「はい、母は私が赤ちゃんの時に。父はいますよ。ただ、仕事が忙しくて私が幼稚園の頃から海外赴任をしているので、ずっと祖父母の家で暮らしていました。
日本に帰ってくるのも年に一.二回ほどであまり連絡も取っていないので、正直今でも父とはどう接していいのかわからないんです。親子なのにおかしいですよね?」
そう自傷気味に笑う優茉。
「いや、家族の形はそれぞれだから。おかしくはないと思うよ」
たしかあの時も、海外にいると言っていた。今でもそうなのか...
そう考えていると、今度は優茉が遠慮がちに質問を返す。
「あの、先生は...?院長とは、少し距離を置かれているんですか...?」
「ああ、俺も正直父親との接し方があまりわからないんだ。
俺も...、子どもの頃に母を亡くしているんだ。元々忙しい人だったし、同じ家に住んでいても会う事はあまりなくて、父親らしい事をしてもらった記憶もない。だから今でも、父親というよりは院長という感じで、ほとんど業務的な話しかしないんだ」
「えっ...」と驚いた表情で、言葉を失っている。
「...すみません。そうとは知らずに、詮索するような事を聞いてしまって...」
「いや、俺ももう母親のことはだいぶ経つから傷は癒えているし、先に家族の事を聞いたのは俺の方だから。
実は、一応同棲しているわけだから、優茉のお父さんに挨拶しなければと思っていたんだ。でも海外にいるのなら、すぐには難しそうだな...」
「い、いえ!挨拶なんて大丈夫だと思います。一時的ですし、たぶん父に伝えたところで、特に何もないと思いますし...」
優茉の言葉は少し気にはなったが、少し暗くなってしまった空気を変えるため一旦この話は終わりにする事にした。
「そうか、じゃあとりあえず一旦考えるよ。それより少し冷えてきたし、どこかで温かいものでも飲もう」
そう言って立ち上がり、優茉に右手を差し出す。少し躊躇っていたが、俺の手を取ってくれたのでそのまま繋いで歩き始めた。
彼女が行きたかったという老舗洋菓子店に入り、紅茶とケーキを頼んで温まった。ラム酒が香るチョコレートケーキは、甘すぎずとても美味しかった。
その後、赤煉瓦のあたりで少しショッピングをして外に出ると、もう陽が沈み始め辺りは薄暗くイルミネーションの光が灯り始めていた。
この後どうするか決めていなかったので、優茉に尋ねると少し恥ずかしそうに「あの、あれに乗りたいです...。 嫌、ですか?」と大きな観覧車を指差して言う。
少し意外ではあったが、これも小説に出てきたのだろうか?言わば聖地巡礼のようなものか?
「じゃあ、乗りに行こうか」
そう言うと「はい!」とパァっと嬉しそうな笑顔になる優茉はとても可愛かった。