柊哉side

 手をマッサージしながら、時々上目遣いで俺の表情を確認してくる優茉を見ていると、胸の奥から湧き上がってくる衝動を止められなかった。

 ストレス緩和だとか色々言ったが、本当はただただ優茉を抱きしめたくて仕方なかっただけだった。
 戸惑いながらも抵抗しない優茉をぎゅっと強く抱きしめると、心の深くまで満たされていく。

 耳まで真っ赤にし恥ずかしそうに俯く優茉が可愛すぎて...少しだけ意地悪したくなってしまったが、それと同時に、また別の欲求が迫り上がってくるのを感じ止められなくなる前に彼女を離し、今日は眠る事にした。

 ここで暮らし始めてから二週間ほどが経ち、優茉もだいぶこの生活に慣れてきたようだった。家でも前よりリラックスした表情を見せるし、俺の存在にも慣れてきた様子だ。

 だから、そろそろ攻めてもいい頃じゃないかと思った。ただの同居人ではなく、男として意識してもらえるように。俺を好きになってもらえるように。

 もう残された時間はあまりないし、俺はこの二週間で痛いほど良く分かった。

 もう優茉のいない生活には戻れない。

 家に帰ればあかりが灯っていて優茉が笑顔で「おかえりなさい」と迎えてくれる安心感、優茉の温もり、優茉の優しい料理の味。

 どれも手放すなんて、もう絶対にできない。

 可能性がある限り、ここからは遠慮せず優茉の心がこちらに向くまで、自分の気持ちに正直になり続けようと決めた。



 翌朝、隣で優茉が動いている気配を感じて目が覚めた。時計を見ると七時過ぎ。

 こちら向きに寝返りをうった優茉は、まだ無防備な寝顔を見せている。可愛いくてつい髪を撫でていると「んぅ?」と声がして、彼女はゆっくりと目を開けた。
 まだ寝ぼけているようで、ぼーっと俺の顔を二.三秒見つめてから、大きく目を見開き飛び起きた。

 「おはよう」

 何事もなかったようにそう言うと、ちらっとこちらを見て恥ずかしそうに小さい声で挨拶を返してくれる。

 せっかく早く起きたので、さっそく用意をして優茉がリクエストした横浜へと出発した。
 途中でカフェに寄ってコーヒーとサンドイッチを買い、車の中で食べながら目的地を目指す。

 少しずつ窓から見える景色も変わっていき一時間ほどで到着し、まずはこの時期しか見られない紅葉に染まる三溪園を散策した。イチョウの葉が落ち、黄色に染まった道もまたとても綺麗だ。

 その後も、異国情緒あふれるレトロな洋館が並ぶ街なみをゆっくりと散歩してまわった。
 優茉は大好きな小説に出てきた街並みや建物を実際に見ることができて、終始とても嬉しそうにしていた。そんな彼女の笑顔を見られただけで、俺はもう十分だ。

 満足するまで見終わるとお昼の時間帯になっていたので中華街へと移動し、それぞれ好きなものを買って食べ歩きをした。
 横浜には来たことはあるが、こんなにゆっくりと街を眺めて、食べ歩きをするなんて初めてのこと。