翌朝、先生より少し早く起きて、また少し貴重な寝顔を眺めて癒されてからベッドを出た。

 下ごしらえをしておいた野菜やお肉で、朝ごはんと二人分のお弁当を作っていく。
 私の出勤時間には少し早いけれど、確か今日は午前中からオペがあったはず。きっと私よりも早く家を出るのだろうと思い用意していると、先生が起きてきた。

 よかった、ご飯もお弁当も間に合いそう。

 朝から重くなり過ぎず、でもきっとお昼は遅くなるだろうからしっかりとエネルギーになるようなメニューを意識してみた。
 お弁当も片手で作業しながらでも食べやすいよう、おかずは一口サイズにしてピックをさしてみる。

 ちょうどテーブルに並べ終えたところで、スラックスとシャツに着替えてリビングに入ってきた先生は、もう髪の毛まで整っていて寝起きの可愛らしさはない...。

 「ご飯もお弁当もありがとう。早起き大変じゃない?本当に無理していない?」

 「はい、大丈夫です。もし寝坊してしまったら、おにぎりだけになるかもしれませんけど」

 「もちろんそれでも構わないけど、寝坊した時は作らなくて大丈夫だよ。
 優茉は何時に出る?俺はもう少しで出るつもりだけど、一緒に車で行く?」

 「あ、いえ。少し早いですし、一緒に行くのはまずいかと...」

 「ん?」

 そうだった、これだけははっきり言っておかないと...

 「あの、病院では一緒に暮らしている事や私達の関係は絶対に内緒にして欲しいんです。えっと、変に周りの皆さんに気を遣われても嫌なので...」

 「...ああ、わかった。出来るだけ秘密にするよ。じゃあ優茉は歩いて行く?」

 「はい、歩いて行きます」

 「わかった、じゃあ気をつけてね」

 朝はいつも食べていないと言っていたけれど、今日もしっかり完食してくれて嬉しかった。

 ジャケットを羽織って車のキーを持った先生を玄関まで見送りに行く。

 「長時間のオペ、頑張ってください」

 先生は一瞬、えっ?と言う顔をしたけれどすぐに微笑んで「そうか、優茉は俺のスケジュールの管理もしてくれているから知っているのか。ありがとう、朝から元気もらえたし頑張れるよ。じゃあ」

 そう言って靴を履きカバンを持って振り返ったと思ったら、ふいにこちらに近づいてきた。
 どうしたんだろう?と思っている間に先生が目の前まできて、片手でぎゅっと抱きしめられ耳元で「行ってきます」と言ってすぐに玄関を出て行った。


 ......え? 今の、は?

 あっという間の出来事に驚き、まだ体が硬直したまま動かない。

 今のは...、行ってきますのハグ?

 ああ、先生はしばらく海外にいたから挨拶のようなもの...?向こうでは普通なの、かな?

 ドクンッドクンッと落ち着かない心臓を抱えたまま、なんとか足を動かしキッチンに向かい後片付けをする。
 驚いたけれど、ふわっと先生の甘さを含んだ爽やかな香りに包まれて、全く嫌ではなかった。

 私、大丈夫かな...?

 毎朝こうなるのだとしたら、きっと心臓がもたない...。

 だめだめ、ぼんやりしている暇はないんだった。早く片付けないと。

 なんとか心を落ち着かせて片付けをし、私も支度を済ませ先生よりも少し後に出勤した。