柊哉side

 食事を終えて、優茉には先にお風呂に入ってもらい後片付けをしながら、先ほどまでの事を考えていた。

 優茉が作ってくれたご飯は、どれも優しい味がして、身体中にじわじわと染み渡るような感じがした。そんな感覚は、初めてだった。

 作ってくれると言ってくれた事が嬉しくて、つい舞い上がってしまったが本当に優茉は大丈夫なのだろうか。
 きっと必要以上に気を遣って、辛くても笑って溜め込んでしまう性格だと思うから、最初に言っておこうと思ったが、優茉が見当違いな事を慌てて話し始めたので少し驚いた。

 ...でもそうだよな。俺は婚約者のフリをお願いしたのだから。

 一緒に暮らすと言っても、それはお互いの事を知る為であって、必要以上に親密になる必要はないと彼女は考えているのだろう。
 俺としては少しでも距離を縮めたいと思っているわけだけど、そう思っていない優茉にガンガンいくのは絶対に引かれるだろうし...少し落ち着こう。

 まずは優茉がこの家での生活に慣れるまでは、あまり余計な事はしないようにする。でも悠長にもしていられないから、少しずつでも俺を男として意識してもらえるように頑張ろう。 

 そう決めて片付けを終わらせ、彼女が戻るのをタブレットで少し仕事をしながら待っていた。


 少ししてリビングに戻ったきた優茉は、ふわふわした素材のパジャマを着て髪を下ろし、ほんのり頬がピンクに染まった湯上がりのすっぴんの姿。

 ...可愛い。

 素直にそんな言葉が真っ先に浮かんで、抱きしめたい衝動が湧き上がり、自分でも少し驚いた...。
 それを誤魔化すようにすぐに立ち上がって優茉に水を渡し、逃げるように風呂場へ行きドアを閉める。

 ...これは、思った以上に大変かもしれない。

 色々な意味で。