「え?作ってくれるの?...俺の分も?」

 「もちろんです。あ、でも大した物は作れませんよ?先生のお口に合うかもわかりませんし...」

 「......」

 やっぱり余計なお世話?とても素敵なお家に住まわせてもらうし、私が出来ることはやろうと初めから決めていたけれど...私はただの同居人で、本当の婚約者じゃない。やっぱり干渉するような事をしてはいけないよね...。
 すぐにそう思い直し、少し驚いたような顔で黙っている先生に、慌てて訂正する。

 「あ、あのすみません。余計な事はしないように...」

 「嬉しい、ありがとう。優茉が疲れていなければ、優茉の手料理が食べたい」

 私が言い終わる前に、満面の笑みを向けられた。


 ドクンッ

 先生って、こんな顔で笑うんだ...

 優しく微笑むような笑みは見たことがあったけれど、こんなに無邪気な笑顔は初めて見た...。不覚にも心臓が跳ね、ドキドキしてしまい、どこを見たらいいのかわからなかった。

 「でも、この家に住み始めてから料理をほとんどしていないから、食材はあまりないんだ。近くにスーパーがあるから買い物に行こう」

 そう言って先生はすぐに車のキーを持って戻ってきて、足早に玄関の方へと向かったので急いで着いていく。

 徒歩でも十分もかからないであろう場所に大きなスーパーがあり、これからは帰りにここで買い物ができそう。
 先生がカゴを持ってくれて、好きな食べ物の話をしながら食材を一緒に選んだり、これはどうかとか誰かと話しながら買い物をしたのは久しぶりで、とても楽しい時間だった。

 調味料類もあまりないというので一通り買い揃えると、結構な重さになってしまったので、先生がいる時に車できてよかったかもしれない。


 帰ってからさっそく、持ってきたエプロンを出して調理を始めた。先生のリクエストは和食だったので、あまり時間をかけずに出来る和風ハンバーグと野菜をたくさん入れた豚汁、ほうれん草が安かったので白和えにする事にした。

 遠慮したけれど、先生は「手伝うよ」と言ってくれるので野菜を切ってもらう。
 一人暮らしが長いから簡単な物なら作れると言っていた通り、包丁さばきは危なげなく、どんどん野菜は姿を変えていく。

 すごいな...お料理も出来ちゃうんだ。

 きっと手先はものすごく器用なんだろうなぁ、と男性にしては細く長い綺麗な指をぼんやりと見ていると「これくらいでいい?」とあっという間にお願いした野菜は切り終わっていた。

 「あ、はい!ありがとうございます。お料理も上手なんですね」

 「いや、得意ではないけど野菜を切るのは好きだな。優茉は?料理をする事は好き?」

 「はい、好きです。小さい頃からおばあちゃんとキッチンにいることが好きで、色々教えてもらいました。あ、私の祖父母は小さいですけど、お弁当屋さんをやっているんです」

 「へぇ、そうなんだ。今度行ってみたいな、お弁当食べてみたい」

 そんな話をしながら、今度は大根をおろしてもらい私はハンバーグを焼いて一緒に料理を完成させていく。...男の人と料理をする事も初めてだけど、不思議と違和感がない。先生の手際が良くて上手だからかな?

 気がつくとすぐに思考が飛んでしまい、焦がさないようフライパンのハンバーグに再び集中した。