少しの間沈黙が落ちて、私、変な事を言ってしまったかな...?と不安になっていると、先生は遠慮がちに口を開く。
「今さらこんな事を聞くのも変だけど、こんな提案を承諾してくれたっていう事は、今恋人はいないと思っていいんだよね?」
「あ、はい。しばらくそういう人はいません。...あの、先生は?」
「もちろんいない。いたらこんな提案していないよ」
そうだよね、お付き合いしている人がいたら、わざわざ私を代わりになんてする必要ないはずだし...。
「俺もしばらくそういう人はいないな。それに、親友達に言わせれば、俺は昔から恋愛には疎かったらしい。まぁ、勉強している方が良いと思っていたこともあったのは確かだし」と少し苦笑いしながら言う先生。
...そう、なんだ。勝手に経験豊富そうだと思っていたけれど、そんな事ないのかな...?いや、でも先生がモテないはずがないし...
でも、きっとお医者さんになるには相当な努力が必要だろう。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「何でも答えるよ」
「先生は、どうしてお医者さんになられたんですか...?」
「...俺はあの家に生まれたから、医者になる事だけを望まれていた。でもずっと、そこに俺の意思はなくて。
俺に本気で医者を目指すきっかけをくれたのは、ある一人の女の子との出会いがきっかけなんだ。その子を助けたいと思った時、俺は初めて自分の意思で医者になろうと思った」
そう話す先生の横顔は少し寂しそうで、でもきっとその子を今でもとても大切に思っているんだろうなと伝わってきた。