「でもさっきの、私なんかって言い方は良くない。君の事はまだよく知らないけど、この一ヶ月の仕事ぶりはみてきた。いつも一生懸命に仕事に向き合っている姿も、周りのスタッフから信頼されている事も知っている。
 君はいつも周りを気遣って、自分の仕事以上のことをしてくれているんじゃないか?もっと自分の事を褒めていいくらいだよ。卑下する必要なんて全くない」


 ...そんな事、初めて言われた。
 それに、この一ヶ月でほとんど接点はなかったのに、私の仕事を見ていてくれたの...?

 真っ直ぐに力強い瞳で私を見つめながら放たれた言葉が、頭の中で何度も反響している。自分の事を認めてくれる言葉が、心に沁みて素直に嬉しかった。

 その感覚に浸りながら、ぼんやりと先生を見つめる。

 ...綺麗な、ダークブラウンの瞳。

 長身でモデルさんのようなスタイルに整い過ぎている容姿。そして外科医としての腕は一流...本当にそんな人がいたんだなぁ。
 かりそめとはいえ、こんなすごい人の婚約者が私に務まるのだろうか...?

 しばらくぼんやりと考えていると、少し首を傾けて上目遣いのような視線を向けられる。

 「俺のこと、助けてくれる?何でも協力するって言ってくれたよね?」

 うっ... 確かに、言いました。
 でも、今その視線とその言葉を出すのは反則では...

 「...本当に、私で、大丈夫ですか?」

 「俺は君がいい」

 もう、私に選択肢はなかった。
 
 真っ直ぐに目を見てそんな事を言われたら...、頷くしかないじゃない。