柊哉side

 そもそもこの一ヶ月は本当に忙しく、仕事以外の事はあまり考える暇もなかった。

 食事はパソコンやタブレットを見ながら、片手で簡単に食べられるおにぎりやサンドイッチばかり。
 元々あまり食事にこだわりはなく、料理も一応出来なくはないが時間がない。家にはほとんどシャワーと寝るために帰るだけで、段ボールも結局まだ残っている。


 そんな生活が一ヶ月ほど続いていた先日、六時間を超えるオペが終わりつい気が抜けたのか、着替えに戻る途中の廊下で目眩を感じ、近くの壁に手をついたが支えきれず膝をついた。
 それを後ろから来た看護師に見られ、ちょっとした騒ぎになってしまった。

 その後、一緒にオペに入っていた水島先生に支えられながら仮眠室のベッドに横になり、目眩が治るのを目を閉じて待っていたがいつの間にか眠ってしまっていたようで、目が覚めた時には左腕に点滴が繋がれていた。

 そのおかげもあり起き上がった時には頭がスッキリとしていたが、医者がオペの後に倒れるなんて情けない...。
 六時間のオペなど脳神経外科医としては珍しいものではなく、もっと長時間になる事もざらにあるというのに。

 はぁ、自己管理が出来ていないと言う事だな。所謂、医者の不養生というやつか。
 とにかく回復したので、点滴を抜いてそれをナースステーションまで戻しに行くと、会う人会う人に「大丈夫ですか⁈」と声をかけられた。

 ...なぜ皆んな知っているんだ?
 おそらく看護師達から伝わったのだろうけれど、本当に噂は足が速い。

 それから水島先生にお礼を言いに行くと「勝手に点滴しちゃってごめんね。でも香月先生かなり疲れてるみたいだったし、実際戻ってきてからほとんど休んでないんじゃない?」と苦笑いを返された。

 確かにこの一ヶ月はほとんど休みはなかったし、土日も関係なく出勤し家でも仕事をしていたので、自分が思っている以上に身体は疲れていたのかもしれない。

 「ご迷惑おかけしてすみません。おかげでスッキリしました」

 「あの点滴と仮眠でスッキリって...。香月先生、今日くらいはちゃんと休んだ方がいいよ。ちゃんと食事も摂ってね」

 とにかくその後は少しペースを落として仕事をし、先生達の気遣いもあり早めに帰ったが食事も摂らずに眠ってしまった。