柊哉side
「それで、喘息はいつから?」
「えっと... 子どもの頃からなんです」
「カルテには健康診断の時の記録ぐらいしかなかったって聞いたけど、他の病院にかかっていたということ?」
「はい、今は別の病院に。実は子どもの頃はここの小児科に通っていたんですけど、もう十数年も前なのでカルテは残っていないかと...」
「なるほど。入院するようなことは?初めて?」
「子どもの頃は何度かありましたが、大人になってからは初めてです...」
自分で管理ができていなかった事が後ろめたいのか、少し罰が悪そうに言う彼女。
ふとベッドサイドにあるテーブルに置かれた荷物が目に入り、何気なさを装って聞いてみる。
「荷物はご家族が?入院は長引きそうなの?」
「あ、はい。さっき届けてもらいました。結城先生には最低でも三日間と言われましたが、まだはっきりと期間は決められないそうです...」
「そうか、貧血もあったみたいだしな。焦らずゆっくり休むといいよ」
「はい。お仕事のこともあるので、早く復帰出来るように頑張ります」
「ふっ、俺の話聞いてた?喘息も貧血も長期戦だろうから、焦ることはないよ。仕事はみんなで回すものだと俺は思うし」
「は、はい。すみません...」
今度は少し恥ずかしそうに頭を下げた。
あたかも医者としての質問をしているように会話を続ける俺に、まだ少し警戒しているような雰囲気はあるが、この数分でも様々な表情を見せる彼女から目が離せなくなっていた。
置かれている荷物の横に、卵焼きのようなものが入ったパックが見えていて「それは?」と指をさして聞いてみると今度は嬉しそうに微笑む。
「あ、だし巻き卵です。私の好物なので、荷物と一緒に持ってきてくれたんだと思います」
「お母さんが?」
「あ、いえ、祖母です。私の母は亡くなっているんです」
「...ごめん、掘り下げたことを聞いて」
「いえ!亡くなったのは私が一歳になったばかりの頃なので、もちろん記憶もありませんしそんなに悲しいと思ったこともないので、お気になさらずに」
そう言って微笑んでいる彼女の笑顔は、儚さと少しの憂いが含まれているように見えた。
その表情を変えたくて、何か他の話をしようと思った時ポケットの中のスマホが振動した。彼女にことわってから電話に出ると、病棟からの呼び出しだ。
「ごめん、呼び出しだ。昨日より元気そうな姿が見られて安心したよ。また倒れないように、くれぐれも無理はしないようにな。じゃあお大事に」
彼女の部屋を出て病棟へと歩きながら、先ほどの会話を思い出す。
何を話すかも決めていなかったし、警戒されている雰囲気も伝わってきていたのに、彼女の顔を見た瞬間から感じていたことを確かめずにはいられなくなっていた。
医療的な質問を装って過去の入院歴を聞いたり、わざと母親の存在を確かめたり...。
さすがにやりすぎたか?変な奴だと思われただろうか...?
でも、後悔はしていない。俺は確信したから。
さっきの会話の内容と、パジャマ姿に少し癖のある髪、幼さが残る素顔。
やっぱり彼女は、あの時の女の子だ。
「それで、喘息はいつから?」
「えっと... 子どもの頃からなんです」
「カルテには健康診断の時の記録ぐらいしかなかったって聞いたけど、他の病院にかかっていたということ?」
「はい、今は別の病院に。実は子どもの頃はここの小児科に通っていたんですけど、もう十数年も前なのでカルテは残っていないかと...」
「なるほど。入院するようなことは?初めて?」
「子どもの頃は何度かありましたが、大人になってからは初めてです...」
自分で管理ができていなかった事が後ろめたいのか、少し罰が悪そうに言う彼女。
ふとベッドサイドにあるテーブルに置かれた荷物が目に入り、何気なさを装って聞いてみる。
「荷物はご家族が?入院は長引きそうなの?」
「あ、はい。さっき届けてもらいました。結城先生には最低でも三日間と言われましたが、まだはっきりと期間は決められないそうです...」
「そうか、貧血もあったみたいだしな。焦らずゆっくり休むといいよ」
「はい。お仕事のこともあるので、早く復帰出来るように頑張ります」
「ふっ、俺の話聞いてた?喘息も貧血も長期戦だろうから、焦ることはないよ。仕事はみんなで回すものだと俺は思うし」
「は、はい。すみません...」
今度は少し恥ずかしそうに頭を下げた。
あたかも医者としての質問をしているように会話を続ける俺に、まだ少し警戒しているような雰囲気はあるが、この数分でも様々な表情を見せる彼女から目が離せなくなっていた。
置かれている荷物の横に、卵焼きのようなものが入ったパックが見えていて「それは?」と指をさして聞いてみると今度は嬉しそうに微笑む。
「あ、だし巻き卵です。私の好物なので、荷物と一緒に持ってきてくれたんだと思います」
「お母さんが?」
「あ、いえ、祖母です。私の母は亡くなっているんです」
「...ごめん、掘り下げたことを聞いて」
「いえ!亡くなったのは私が一歳になったばかりの頃なので、もちろん記憶もありませんしそんなに悲しいと思ったこともないので、お気になさらずに」
そう言って微笑んでいる彼女の笑顔は、儚さと少しの憂いが含まれているように見えた。
その表情を変えたくて、何か他の話をしようと思った時ポケットの中のスマホが振動した。彼女にことわってから電話に出ると、病棟からの呼び出しだ。
「ごめん、呼び出しだ。昨日より元気そうな姿が見られて安心したよ。また倒れないように、くれぐれも無理はしないようにな。じゃあお大事に」
彼女の部屋を出て病棟へと歩きながら、先ほどの会話を思い出す。
何を話すかも決めていなかったし、警戒されている雰囲気も伝わってきていたのに、彼女の顔を見た瞬間から感じていたことを確かめずにはいられなくなっていた。
医療的な質問を装って過去の入院歴を聞いたり、わざと母親の存在を確かめたり...。
さすがにやりすぎたか?変な奴だと思われただろうか...?
でも、後悔はしていない。俺は確信したから。
さっきの会話の内容と、パジャマ姿に少し癖のある髪、幼さが残る素顔。
やっぱり彼女は、あの時の女の子だ。