柊哉side

 帰国して三日が経ち、今日から勤務のため早めに家を出て車で病院へ向かった。
 昨日からふとした時に彼女の事が頭をよぎりその度に考えてしまうが、とにかく今はオペに集中し、無事に済んだら彼女の病室まで会いに行こうと決めた。

 朝の申し送りが始まると、看護師長に手招きをされ前に出される。

 「今日から香月先生が戻られます。今まで以上に忙しくなると思いますので、余計な事は考えずに!仕事に邁進して下さい」

 師長が語気を強める様子に、看護師たちは深めに頷いている。
 正直、師長の気遣いは俺にとってはとてもありがたい。変に気を使われるのも嫌だが、院長の息子という肩書きに絶えず寄ってくる女性に割いている時間などないから。


 今後は時々外来にも出るが、基本的には入院患者の診察や検査、オペなどを中心に病棟勤務。
 今日は午前中からオペに入る為、橘先生と入念に確認をし準備に取りかかる。四時間程度のオペだが、腫瘍位置が悪く周りの神経を少しでも傷つけてしまったら患者さんは日常生活には戻れない。準備をしながら、改めて集中しオペ室へと向かった。

 日本では三年ぶりだったが、橘先生とは何度も一緒にオペに入っていたので、自然と上手く連携をとる事ができ予定通りに終える事ができた。

 おそらく問題はないはずだが、患者さんの目が覚めて後遺症がない事を確認するまでは安心できない。たとえリハビリに時間がかかったとしても、元の生活に戻れるまでは成功とは呼べないと思っている。


 医局に戻って遅めの昼食を食べながら、記録をつけたり他の患者さんの検査データを確認していた。
 やがて麻酔から目覚めたと連絡が入り様子を見に行くと、今のところ麻痺などはなく問題はなさそうなので、ひとまず安心だ。


 医局に戻る途中でスマホが鳴り、出ると結城からだった。

 「もしもし?」

 「お疲れ、オペは終わったのか?」

 「ああ、ちょうど今ひと段落したところだよ」

 「じゃあちょうどよかった。これから宮野さんのとこ回診に行くけど、顔出すか?」

 彼女に会ってどうするかはまだ決めていない。だけど、純粋にもう一度彼女の顔が見たい。

 「ああ、これから行くよ」

 「了解。じゃあ先に診察してるから」

 電話を切ってタブレットを置きに戻り、すぐに二階下のフロアに降りた。