そこから助産師さんやらたくさんの人が来て、あっという間に体勢が整えられていく。

 そして声かけに合わせて力を入れ、柊哉さんの手を何度も強く強く握りしめた。

 「うっ、うぅ...はぁ、はぁ」

 「優茉、頑張れ!」

 「もう頭見えてるよー、ラスト頑張って!」

 そう言われ、朦朧とする意識の中で最後の力を振り絞ると...
 するんと抜ける感覚のあと、元気な産声が聞こえてきた。

 「おめでとう!女の子だよ!」と私の胸に赤ちゃんを乗せてもらうと、真っ赤な顔で一生懸命に泣いている。
 その姿に安堵と愛おしさが込み上げ、ポロポロと涙が溢れた。

 「良かった...ありがとう」

 そっと小さな手に触れると、ぎゅっと握り返してくれた。その力強さに、無事に生まれてきてくれた事への感謝の気持ちでいっぱいになった。

 ふと彼を見上げると、潤んだ目元を拭って「優茉、本当にありがとう。本当に...頑張ったな」と優しい笑みで頭を撫でてくれた。

 彼の笑顔に私もようやく心から安心し、力が抜けた時...

 「いっ...たぃ...」チクチクと鋭い痛みを感じ思わず声が出てしまった。
 
 「あ、痛い?麻酔切れてきたかな?すぐ終わらせるからちょっと頑張ってー」

 そう言われ、天宮さんの話を思い出した。産んだ後も覚悟しておいた方がいいって...きっとこの事だ...。

 身体をさすったり話をしてまた私の気を紛らわそうとしてくれる柊哉さんを見ると、その手には爪が食い込んだ赤い跡がいくつも残っている。

 「手...ごめん、なさい。私が、掴んだから...」

 「ん?ああ、気にしないで。優茉が頑張ってくれた証だよ」

 でも大事な手なのに...そう思っていると「よし、終わったよー。本当にお疲れ様、よく頑張ったね」と労うように頭をポンポンとされ、長かった妊婦生活も終わったんだ...とへこんだお腹を触ってようやく実感した。

 「出血は少し多かったけど、初めてなのに上手だったし安産な方だと思うよ。
 それに、あんなに落ち着いて産む人初めてみたよ!俺も良い勉強になった、ありがとう」と笑顔で握手をされた。


 それから二日ほどは、これまた天宮さんの言っていた通り身体中が痛く、起き上がるのが精一杯という感じだった。

 少しずつ回復し始めた頃には、橘先生や水島先生、風見さんなどたくさんの方がお見舞いに来て赤ちゃんを抱っこしてくれた。天宮さんも会いにきてくださり、出産の痛みを分かち合えた。

 そして、私のおばあちゃんおじいちゃんにお父さんも帰国し会いに来てくれた。
 院長は産まれた後すぐに駆けつけ、その後は毎日病室に顔を出してくれている。小さすぎて怖いからと抱っこはされないけれど、毎日赤ちゃんの寝顔を眺める横顔はとても優しく、少し柊哉さんに似ている。