その後はとにかく痛みに耐える時間が続き、間隔もどんどん短くなりずっと痛い。
呼吸法を思い出し、息を吐く事だけに集中していたけれど、だんだんと息をつく間も無くなってきた。
ずっと腰をさすったり声をかけてくれている柊哉さんにも答える余裕がなくなり、辛く終わりの見えない現状に少し弱気になってくる。
次第に呼吸は乱れ、はぁはぁと過呼吸気味になったため酸素マスクをつけてもらいながら、次々と襲ってくる痛みにひたすら耐えていた。
「南、酸素上げていいか?」
「ああ、俺がやるよ。気になるのは分かるけど、今のお前の役割は医者じゃない。夫として優茉さんを支えることだけに専念して」
時々ベッドから離れ点滴の速度を調節したりバイタルを確認している柊哉さんに、南先生はそう言いながら彼の肩を押してベッドサイドの椅子に座らせる。
「優茉さん、しんどいだろうけど頑張って深呼吸して?お母さんが苦しいと赤ちゃんも苦しくなっちゃうから」
そう言われてハッとし、頑張っているのは赤ちゃんも同じなのだから、私が弱気になってちゃいけないと改めて気持ちを奮い立たせた。
ぎゅっと目を閉じていた私に「優茉、俺のことみて?」と言われそっと目を開けると、深呼吸を促してくれ「辛いだろうけど、今はゆっくり呼吸することだけ考えて」と背中を撫でてくれる。
なんだかこの感覚、懐かしい...
既視感のあるシチュエーションに昔のことを思い出し、思わず笑ってしまった。
「ふふっ。それ、懐かしい」
「え?」
「前にも、ありましたね。そう、言ってくれた、こと...」
「ふっ、もしかして優茉が発作で廊下に倒れていたとき?」
「覚えて、ますか?」
「もちろん。あの時は...苦しそうな優茉を早く助けてやりたいって気持ちと、もしかしたらずっと俺が会いたかった人なんじゃないかという期待で、頭がぐちゃぐちゃだったな」
「ふふっ。柊哉さんでも、そんなこと、あるんですね」
「自分でも驚いたよ。俺はあまり感情の起伏のない人間だと思っていたのに、優茉のことになると冷静でいられなくなる。今でもね」
それから柊哉さんは、私の気を紛らわせるように、私たちが出会った頃からの話を聞かせてくれた。
嬉しかった事、幸せな二人の思い出、あの時本当はこんな事を考えていたんだよって、知らなかった彼の気持ちも聞くことが出来て、なんだかとても癒された。
私も懐かしい気持ちを思い出し改めて彼が愛おしく思え、前からずっと変わらない大好きな気持ちがたまらなく溢れ出す。
そのおかげでだいぶ呼吸も落ち着き気持ちも晴れたけれど、痛みは強くなる一方でもう相槌の言葉すら出せなくなっていた。
それでも無性に抱きしめて欲しくなり必死に両手を伸ばすと、ぎゅっと覆い被さるように強く抱きしめてくれる。
「だい、すき...」
「俺も。弱音も吐かないで...本当に強いな、優茉は。もう少しだから、頑張ろうな」
「はい...」
ガラッと扉が開く音がして身体を離そうと思ったけれど、痛みから力が入り彼の服をぎゅっと掴んだまま動けない。
「あれ、邪魔した?」と南先生の声がして、痛みの波が少し引いたタイミングでやっと手を離した。
「そろそろかと思ったけど、まだちょっと余裕ありそうだね。でも一応診ておこうか、ちょっとごめんね」
私の表情をみてそう言いながら、子宮口の確認のため内診を始める。
「あれ、もうほぼ全開だよ。まだ余裕ありそうに見えるけど、かなり痛いでしょ?」
「は、はい...すごく...」
「ははっ、頑張ったね。大体いつも表情とか声で判断してるんだけど、優茉さん落ち着いてるからわかんなかった。
分娩の準備するからもう少し頑張ってね、もうちょっとだよー」