最近はいつもそうだったけれど、うとうとしては目が覚めてトイレに行き、夜中はなかなか寝付くことができない。
 
 今日もしばらく腰や背中をさすってくれていた気持ちよさからうとうとしたけれど、すぐに目が覚めてしまった。

 目を閉じているだけでも身体は休まると聞いたのでひたすら目を閉じていたけれど、やっぱり眠れずトイレに行こうと立ち上がった時...

 ズキンっと腰に強い痛みを感じ、それと同時に何かが出たような感覚があった。

 え...? 今のは...? まさか...

 柊哉さんを起こさないように急いでトイレへ行くと、少量だけどやっぱり破水しているようだった。

 どうしよう...さーっと血の気が引いていくような感じがして、なんとなく先に陣痛が来るものだと思っていたので軽くパニックになる。

 それに、時々ぎゅーっと強い痛みがあり動けずそのまましばらくトイレにこもっていると、トントンとドアをノックされる音でハッとした。

 「優茉?大丈夫?どうした?」

 「あ、あの、破水したかも...」

 「破水?とりあえず一回出てこられそう?大丈夫だから落ち着いて。体冷えちゃうしゆっくりでいいから出ておいで」

 さっきまでどうしようと軽いパニックで頭が追いつかなかったけれど、彼のいつも通りの声を聞いて少し落ち着いた。
 そうだよね、柊哉さんがいるんだし大丈夫。それに私がオロオロしていたら、赤ちゃんが安心して出てこられないじゃない。

 トイレから出るとベッドに運ばれ、とにかく身体を温めるように毛布を巻き付けて腰をさすってくれる。
 落ち着いて状況を説明すると、彼は時計を見て痛みの間隔をはかり南先生に電話してくれた。

 「優茉、おそらく破水で間違いないし間隔も三.四分になってるから病院行こう。動けそう?」

 「は、はい...」

 いよいよだと思うとドクンっと心臓がはね、痛いくらいに強く打ち付ける。

 「大丈夫、今日は俺もずっとそばにいられるから。一緒に頑張ろう?
 それに、そんなタイミングで産まれてきてくれるなんて、親孝行な子だな」

 お腹をそっと撫でながらふっと優しく微笑んでいる彼をみて、なぜかじわっと涙が滲んだけれど私も笑うことができた。

 「ふふっ、そうですね。柊哉さん、大好きです」

 そう言ってぎゅっと抱きつくとグッとそのまま抱き上げられ「俺もだよ」とキスをくれる。

 
 まだ陽が昇りきらない薄暗い明け方、病院に着いた頃には数分おきに来る強い痛みは動けないほどで、時々立ち止まりながらもなんとか病棟まで向かった。

 車から降りるとまたすぐに抱き上げられそうになったけれど、陣痛が来てからは動いた方が早く産まれると聞いたので、なんとか頑張って歩いてきた。

 けれど、LDR室に入り助産師さんに診てもらうと「この状態でよく歩いてきたわね」と驚かれ、その後南先生がきて「もう午前中には産まれそうだよ、ほんと痛みに強いね」と笑っていた。