「優茉ちゃん!来てくれて嬉しい!抱っこしてみる?」
そう言われ抱き方を教わりそっと腕に抱かせてもらうと、その小さな身体とは裏腹に命の重みをずっしりと感じた。
「わぁ、小さい...とっても可愛いですね!」
「ふふっ、ありがとう。優茉ちゃんももうすぐね。だいぶお腹大きくなったんじゃない?」
「はい、なんだか急に大きくなってきて...動くのも一苦労ですね」
「そうよね、でももう少しの辛抱よ!妊婦の間も出産も色々大変だったけど、この子の顔見た瞬間、今までの苦労は全て飛んでいったわ」
「へぇ...ちなみに、出産はどう、でしたか...?」
「あくまで私の場合だけど...本っっ当に大変だった!もうとにかく陣痛に耐える時間が長くて長くて...もう地獄よ!
しかも、ずっと痛みに耐えてるのにいざ産まれるってなるともっと痛いの!もう最後の方は覚えてないくらい朦朧としていたんだけど、産声聞こえた途端に我にかえったって感じかな?」
「そ、そうなんですね......。私も、この子に会えるように頑張らないと...」
「こら涼子、宮野さん怖がらせるような事ばっかり言わないの」
気がつけば、ドアのところに白衣姿の天宮先生が立っていた。
「あ、健吾来てたんだ。でも全部本当の事よ?あと、産まれてからの後処置まで覚悟しておいた方がいいわよ!それから、二日間くらいは寝返りも打てないほど痛かったし、あとは...」
「涼子、もういいから。宮野さんすっかり青ざめてるだろ?」
「あ、ごめんね優茉ちゃん。今のはあくまで私の話だから!お産は人それぞれ違うし、一つの例として聞き流してね!」
「い、いえ...リアルなお話が聞けてとても参考になりました」
最近はいよいよ出産も間近だと感じ、呼吸法の練習をしたりストレッチをしたり、安産になるという紅茶を飲んでみたり...。
不安から色々とやってみてはいるけれど、やはり想像がつかず心は落ち着かない。
でも、天宮さんのリアルな体験談を聞いて少し怖くもなったけれど、それと同時に覚悟もできた気がする。
なによりこの子に早く会いたい、無事に産んであげたい...その気持ちが強くなり、漠然とした不安はあるものの怖がっていても仕方ないと思えた。
安産に向けて出来る限りのことをしよう...!
赤ちゃんの授乳の時間になったので挨拶をして病室を後にし、柊哉さんにお弁当を届けに行く私を一緒に出てきた天宮先生が途中まで送って下さった。
「ごめんね宮野さん、涼子が怖がらせるような事ばっかり言って」
「いえいえ、貴重なお話ですしおかげで覚悟が出来ました。怖がっていても仕方ないので、もう頑張るしかないなって」
「ははっ、宮野さんは強いな。陣痛が始まってからどうしようって狼狽えてた涼子とは大違いだよ」
「いえ、私も実際にその時が来たら狼狽えるかもしれませんけど...でも、漠然とした不安もきっと消える事はないので、もう覚悟を決めるしかないって思えました」
「そうだね、その気持ちがあれば宮野さんなら絶対頑張れるよ。それに、医者の立場から言えばこの病院での出産なら、大抵のことはなんとかなる。宮野さんには香月先生がついてるしね」
「ふふっ、そうですね。何があっても大丈夫だと信じて頑張ります!」
「うん、じゃあ身体気をつけて。無理はしないでね」
「はい、ありがとうございました」