柊哉side

 控え室で優茉と別れ、俺は父さんと共にチャペルへと向かった。

 入り口の扉が開くとそこからは、チャペルを囲う綺麗な海とどこまでも続く青空が目の前に広がる。

 チャペルの前方は、窓や天井も開き開放感に溢れていて、太陽の光が反射してキラキラと輝き、まるで別の世界に飛び込んだような空間。
 パンフレットや雑誌で見てはいたが、実際に目にすると何倍も美しく、言葉を失うほどだった。


 日本でもハワイでも、天井が開き空を見上げる事ができるチャペルは少なく、それがここに決めた大きな理由だった。
 それは「お母さん達にもよく見えるように」という優茉の想いがあったから。彼女にとって空を見上げる事は、小さな頃から特別だったのだろう。

 祭壇の前に立ち少し上を見上げると、雲一つない澄んだ青空がよく見える。席に座りここまで黙っていた父さんが「綺麗な空だな...」と呟く。

 「ああ、優茉が選んだんだ。空からもよく見えるこの場所を」

 「雲一つないな。...母さんも、よく見えているだろうな」
 
 そう言う父さんの目には、涙が浮かんでいる。思い返せば、母さんが亡くなってからも俺はこの人の涙を一度も見た事がなかった。

 きっと、俺の前では悲しむ姿も見せずいつもどこか張り詰めていたのだろう。それが、俺が幸せになる事で少し緩んだのだとしたら、優茉のおかげで俺も少しは親孝行が出来たのかもしれない。

 そんな事を考えていると、綺麗な音楽が流れ始めバーンと勢いよく入り口の扉が開き、腕を組む二人の姿が見えた。

 ベールダウンし俯きがちな優茉の表情を見る事はできないが、彼女の姿からは先程までの緊張感よりも、幸福感に満ちた雰囲気を感じる。
 彼女のお父さんの目元も濡れているが、少し上を見上げるその表情はとても清々しく晴れやかだ。

 一歩ずつバージンロードを歩き、ゆっくりと俺の方へと近づいてくる彼女の姿を見ていると、これまでの優茉との思い出が頭を駆け巡り、愛おしさで涙が溢れそうだった。


 彼女との最初の出会いは、残酷な現実に打ちひしがれていたあの時。決して良い出会いと言えるものではなかった。
 それでも何の運命か、彼女と二度も再会し、俺は愛を教えてもらった。

 今思えば、母さんが心が壊れそうになっていた俺に、優茉を引き合わせてくれたのかもしれない。
 彼女に出会っていなければ、俺はどうなっていただろう...。人を愛することも愛される幸せも、家族の愛も、父親の想いもきっと知らないままだった。

 彼女のくれた愛は、確実に俺を満たし強くしてくれた。優茉が大切過ぎるあまり失う事を怖くなる瞬間もあるが、今迷いなく言える事は一つ。最高に幸せだということ

 二人が俺の目の前に着き、彼女の手がお父さんから俺へと渡される。
 彼の想いも全て俺が受け取って優茉を一生幸せにし続ける。そう改めて固く誓い、幸せそうに微笑む彼女の手をとった。