翌朝、大きなキャリーケースを二つトランクに乗せ空港へと向かう。
 私は海外はすごく久しぶりだし、忘れ物がないかとそわそわするけれど、とりあえず挙式に必要な物は何度も確認したし、大丈夫かな...?

 「ふふっ、パスポートさえあれば大丈夫だよ。俺が二人分持っているし、挙式に必要な物も昨日一緒に確認しただろう?何も心配いらないから、そんな顔しないの」

 私は何も言っていないけれど表情で心の中を読んでくれていたらしく、赤信号で止まると彼はそう言いながらちゅっと触れるだけのキスをする。

 「そうですね、柊哉さんがいれば安心です」


 行き先は、ハワイのホノルル空港。

 海と空が綺麗に見えるチャペルでの挙式に憧れていた私は、関東でそういう場所がないか探していた。
 それを知った柊哉さんが、「じゃあここはどう?」とハワイの海辺のチャペルが沢山載っているパンフレットを見せてくれた。

 彼の仕事上、まとまったお休みは取れないと思い海外という選択肢は初めから考えてもいなかったので、とても驚いた。

 「せっかくだから、ハネムーンも兼ねて行かない?」

 そう提案され、海外なんて本当に...?と思っていたけれど、院長も賛成してくれ周りの協力も得てハワイウェディングが実現した。

 そして、彼の立場上披露宴には病院の関係者などたくさんの方を呼ばなくてはならない為、挙式は家族だけでやろうと提案してくれたのも柊哉さん。
 たくさんの人を前にするのが苦手な私を気遣い、そう言ってくれた事がとても嬉しかった。


 旅行客で混雑する空港を手を繋ぎながら国際線のゲートを目指して歩き、荷物を預けに向かった先は、なぜか全く人が並んでいないカウンター。
 柊哉さんがそこで手続きをしてくれている間、周りを見ていると"ファーストクラス専用"と書かれている...。

 航空券やホテルは彼に任せていたけれど、まさか...

 「優茉、終わったよ。お店とかどこか見る?それともラウンジに入る?」

 「ら、ラウンジって...?」

 「あっちにファーストクラスラウンジがあるから、搭乗までゆっくりできるよ」

 「あ、あの、ファーストクラス...なんですか?」

 「せっかくのハネムーンだからね。...嫌だった?」

 「い、いえ!ちょっと驚いただけで...」

 「俺もあまり乗ったことはないよ。でも、今日は特別でしょ?」

 「そうですね、ありがとうございます」

 せっかくなのでラウンジに入ると、そのラグジュアリーさにまた驚いた。軽食と紅茶を頂いて搭乗までゆっくりと過ごし、いよいよ飛行機に乗り込む。

 そこはまるで異世界で、ファーストクラスのあまりの広さと快適さに、飛行機に乗っていることを忘れてしまいそうになるほどだった。

 約八時間ほどのフライトもあっという間に到着時間が近づき、窓からは真っ青に澄んだ海と空が見える。

 すごい...とっても綺麗...!
 思わず眠っていた柊哉さんを起こして、窓の外を指差す。

 「すごいな、こんなに綺麗な海は初めてみた。楽しみだね」

 わくわくと期待で胸を膨らませ二人でしばらく窓の外を眺めていると、飛行機は地上へと緩やかに着陸した。