今朝は真夏を思わせるほど暑かった。薄手のカーディガンを羽織ってきたけれど全く必要はなく、出勤するだけで汗だくになってしまった。

 制服に着替える時に汗は拭いたけれど、病院内のクーラーで一気に身体が冷えてしまい嫌な感覚に襲われた。
 喉の奥がぎゅーっと閉まって息が詰まるような独特の感覚...。

 今日は発作が起こらないように気をつけないと。念の為、着てきた薄手のカーディガンを羽織ってから自席に着いた。

 今日は午前中に退院される方が多くいた為、書類作成や手続きに追われる。説明をするため声を出す機会も多く、喉の違和感を感じながらもひと段落するまでなんとか耐えた。

 そして今日最後の退院患者さんを見送ってから席に座る頃には、込み上げてくる咳を我慢できなくなっていた。

 「やっとひと段落したわね。優茉ちゃん大丈夫?もうすぐお昼だし、少し早いけど先に休憩行ってきたら?」

 「すみません、お先に休憩入らせてもらいます」

 トイレで薬を飲みたかったのでお言葉に甘え、バッグを持って立ち上がり咳が出ないよう息を止めたりしながら歩いていた。
 けれど、もう少しだという安堵感からか気が緩み、激しい咳き込みに思わず立ち止まった。

 「ゲホッゲホッ ヒュー」

 どうしよう、早く発作止めの吸入しないと。トイレに急ごうと再び歩き始めた瞬間、目の前がぐわんっと歪んだ。
 咄嗟に壁に手をついたけれど、目の前がどんどん真っ白になり身体に力が入らず、ずるずると壁沿いに座り込んでしまった。

 動きたいのに身体が言う事を聞かない。おまけに息も吸えなくなってきた。

 なにこれ... どうしよう...

 落ち着くまで時間がかかると思っていたので、いつもは行かない少し離れたひとけが少ない方のトイレを選んでしまった。

 誰かが通りかかるのを待つしかない...?上手く酸素を取り込めず頭もぼーっとしてきて、考えようとしても何も浮かんでこない。
 耳鳴りもしてきて意識が遠のいていく最中、誰かが走ってくるような足音がかすかに聞こえた気がした。