柊哉side

 紗江からの電話を終わらせ席に戻ると、そこには先程までとは明らかに様子の違う優茉の姿があった。
 
 「柊哉さん、おかえりなさい!」

 そう言いながら、俺に飛びつく勢いで抱きついてくる。

 「ははっ、優茉ちゃん大胆!」

 楽しそうな伊織の声に、呆れた顔をしている翔。
 
 一旦抱き止めてから彼女を椅子に座らせると、真っ赤な頬に潤んだ瞳でニコニコと俺を見つめている。

 これは...、完全に酔ってるな...

 俺が外に出ていた十数分でここまで酔いが回るものか?
 疑問に思いテーブルを見渡すと、先程まではなかったグラスが彼女の近くに置いてある。

 「それ、優茉が飲んだの?」

 「はい、とっても美味しかったんですよ。紅茶の香りとチョコレートと甘くてデザートみたいでした!」

 紅茶の香りとチョコレート?そんなカクテルあったかな...
 ちらっと周りを見れば、ご機嫌な優茉と視線を逸らす翔にニヤニヤと楽しそうな伊織。

 「...伊織だろ?これ頼んだの」

 「ふふっ、優茉ちゃん甘いのが好きって言ってたから、特製ダージリンクーラーにしてあげたの!」

 はぁ...やっぱり伊織の仕業か...。

 おそらくダージリンクーラーにチョコレートリキュールを加えたんだろう。お酒の弱い優茉にはかなり強かったはず。しかもそれをこの短時間で飲み干しているとなれば、この状態にも納得だ。

 酔いが覚めてしまったので飲み直そうと思っていたが、こんな状態の優茉をここに居させるわけにはいかない。

 「優茉、そろそろ帰るよ?」

 そう声をかけると素直に「はーい」と手を上げる。

 「えー、もう帰っちゃうの?まだ飲もうよ!」

 「伊織ももうやめとけって。柊哉、彼女のこと怒んないでやれよ?悪いのはこいつなんだから」
 
 「ああ、分かってる。でも相当酔ってるから連れて帰るよ」

 「もういい時間だし、俺たちも帰るぞ」

 「えー!」と不満そうな伊織の腕を掴んで翔も立ち上がる。
 フラフラと足元のおぼつかない優茉を支えながら外に出て、車は代行を頼みタクシーに乗せる。

 「じゃあな、柊哉。次は結婚式か?楽しみにしてるよ」

 「優茉ちゃんもまた飲もうねー!」

 二人に見送られながらタクシーが走りだし、優茉は彼らが見えなくなるまで窓の外に手を振り続けていた。