手のひらに残った彼女の温もりと、四葉のクローバーをぐっと握って立ち上がる。

 俺は彼女を救えるような医者になりたい。

 病気だけじゃなく、彼女を悲しみからも救ってあげたい。

 初めて自分の意志で、そう思った。
 まるで、白一色だった世界に彼女が色をつけてくれたような感覚。
 
 それからすぐに家へ戻り、わずかな時間で宿題を終わらせ、他の参考書をひらいて勉強に明け暮れた。




 夢では、彼女が泣き出したところで必ず目が覚め、その度にあの時の気持ちも鮮明に思い出される。

 手帳に挟んである、少し色褪せた緑の四葉のクローバー。
 それがこの夢は現実に起きた事だと証明してくれている。

 そして、最近よく思う。
 彼女は元気にしているだろうか。なぜあの時、彼女の名前を聞かなかったのだろうか。

 もう二十二年も前の、たった十数分ほどの出来事なのに...。あれから忘れた事はない。