柊哉side

 強い意志を持った瞳で真っ直ぐに俺を見つめる優茉に、込み上げてくるものを抑えるだけで精一杯だった。

 彼女は残酷な事実を知った今でも、俺を好きだと言ってくれる。
 ずっと現実から逃げていた俺に対し、優茉は正面から向き合いはっきりと自分の思いを伝えてくれている。

 俺は...本当に弱くて臆病だな...。自分の情けなさに、言葉も出てこない。

 彼女の気持ちは、本当に嬉しかった。真っ直ぐに俺を好きだと言ってくれる優茉が愛おしくて、今すぐにでも抱きしめて安心させてやりたい...。

 「でも...」そう言いかけた時

 「私は、柊哉さんとじゃなきゃ、幸せになれません!」

 彼女の震える声が、シーンと静まり返ったリビングに響いた。


 「これ...、クローバーの花言葉、知っていますか?」

 「...え?」

 「クローバー全般の花言葉は"think of me"です。
 そして四葉のクローバーには"good luck"ともう一つ。それは..."be mine"なんです。
 
 私のものに、なってくれますか...?」

 頬を赤らめて恥ずかしそうに、でも少し得意げな微笑みでそう言う優茉。
 

 もう...、我慢できない。

 ぽろっと目から溢れた雫を誤魔化すように、思い切り彼女を抱きしめる。

 俺はあの日からずっと彼女を想い続け、優茉との再会という幸運に恵まれ、そして優茉のものに...

 「まさに...花言葉の通り、だな...」

 「はい...」

 離れていた時間を埋めるように、ぎゅうっと隙間なく強く抱きしめる。
 お互いの存在を確かめるように背中を撫で合い、どちらからともなく唇を合わせる。

 「優茉、ごめん。愛してる。どんなに忘れようと思っても、やっぱりできない...」

 「私も、です...」

 「俺にそんな資格はないことも分かっているけど...、どうしても、この気持ちは変わらないんだ」

 「柊哉さん...二人で、幸せになる努力、しませんか...?」

 「幸せになる、努力...」

 「はい。実は...父は、知っていたそうなんです。柊哉さんの、こと...」

 「......え?」

 「柊哉さんを一目見て、気がついたと...」

 まさか......。

 優茉のお父さんは、分かっていて、俺を受け入れてくれたなんて...
 あまりの衝撃に、返す言葉が見つからない。
 
 知っていて、俺に優茉を託すような言葉をかけてくれたというのか...?

 「父は、私達の気持ちが変わらないのなら、怖がらずに二人でその道を進んでみなさいと言ってくれました。
 きっとお母さんも、私が幸せならそれで良いと思っているはずだと...。
 なので、まずは院長にも、話をしてみませんか...?」

 「...わかった。俺も、出来る限りの努力をしたい」

 現実から、逃げてばかりではいけない。過去の事実は変えられなくても、未来は変えられるかもしれない。
 可能性があるのなら、賭けてみたい。

 優茉の愛が、臆病な俺に、前を向く力をくれたから。