カードキーをあて中へ入ると、真っ暗で人の気配はない。
 リビングのドアを開け電気をつけると、ローテーブルには医学書や雑誌、ノートなどがたくさん置いてある。部屋の隅には、大きなキャリーケースも。

 もう帰って来ていたんだ...。明日からの荷物をまとめていたのかな?今は出かけているだけ?ここで待っていて、いいんだよね?

 一ヶ月前まで住んでいた部屋なのに、なぜか今は他人の家にお邪魔したような感覚で落ち着かない。
 とりあえず、自分の部屋にコートを置きに行こうとした時、裾が引っ掛かりバサっとテーブルのものを落としてしまった。

 落ちた雑誌と手帳を拾い上げると、ハラっと何かが落ちる。
 それらをテーブルに置いてから、落ちたものを探すと...

 これは...?  折り紙...?

 不思議に思いながらも、それを拾い手に取った瞬間、グラッと脳が大きく揺れ、閉まっていた扉が次々と開いていくように、様々な映像が頭の中を駆け巡った。

 えっ...? い、今のは、なに....?  

 フラッシュ、バック...?

 戸惑いながらも、もう一度手の中にある物を見てみると、緑色の折り紙で作った四葉のクローバー。でも、とても色褪せている...

 そして裏側の折り目を見ると、所々に爪で引っ掻いたような跡があり、それを見た瞬間、頭の中にある声が再生された。 

 "少しだけ爪を使うと、折り目が綺麗に見えるのよ"

 これって...、私が入院していた時、時々折り紙を教えてくれていたお姉さんの声...。
 軽く爪で抑えるといいと言われたのに、私は綺麗に折りたい気持ちがはやり、何度も力強く折り目をなぞっては破ってしまう事もあった。
 
 もしかして、これって......

 私が、作ったもの...?

 なぜか直感的に、そう思った。

 幼い頃の記憶はほとんどなかったけれど、今なら何か思い出せるかもしれないと思い、目を閉じて頭の中の記憶を探した。