......そんなことって、あるの?

 事故の加害者が、柊哉さんのお母さん...?

 うそ、どうして......


 驚愕の事実に、頭がついていかない。ただ、どうして?なんで?、それしか浮かんでこない。

 ...柊哉さんは、知って、いたの?

 でも、それならどうして私なんかと結婚を...?
 きっと彼にとってもこの事故は思い出したくないはず。だけどこんな偶然ありえる?まさか、何か目的が...?

 いや、そんなはずない!彼の愛は本物だった。信じているはずなのに...。一瞬でも疑ってしまった自分を引っ叩きたい。
 
 でも、もし彼もこの事実を知らないのだとしたら、どうしたらいいの...?
 事故の被害者と加害者の子ども同士が、結婚なんて...。きっと、許されない。

 どうして、こんな残酷な現実を突きつけるの?神様は酷すぎる...。こんなにも、彼を愛しているのに...

 やっぱり、私は幸せになんてなっちゃいけないって事かな...。


 頭が混乱して取り乱してしまいそうになるのをなんとか抑えて、祖父母の家を後にした。

 実家までは、どうやって帰ってきたのか全く覚えていない。とにかく様々なことが頭に浮かび、気もそぞろなうちに家に着いていた。
 そのまま部屋にこもり、どうしたらいいのか分からず床の上で頭を抱える。

 しばらくしてからキッチンでお気に入りの紅茶を淹れ、それを飲み少しだけ冷静になったところで、ある事に気がついた。

 柊哉さんの様子が変わったのは、あのオペの後からだと思っていたけれど、もしかしたらあの日、私が母の命日の話をしたから...?

 自分の母親と同じ日だと気づいて、調べたのだとしたら...?

 きっと調べる事は可能だろうし、母の名前は新聞にも載っていた。それを見れば、きっと彼なら確信を持ったはず...
 だとしたら、そこから態度が変わったのは、彼も私との関係を迷っていたから...?

 別れようという決定的な言葉は、まだない。人の痛みが分かる心優しい彼のことだから、私を傷つけないように何も言わずに離れようとしているの...?
 渡加ってまさか、また向こうの病院に行っちゃうってこと...?

 どうしよう。どうしたらいいの...?

 でも、どうしようもなく彼に会いたい...。こんな非情な事実を知った今でも、彼を愛している気持ちは変わらない。

 どうしたらいいのか分からないけれど、なんとなくお父さんと話がしたくなり、アメリカはまだ夜中だと分かっていながら、すぐにスマホを取り出し電話番号をタップした。