そして迎えた三月二十一日。

 毎年この時期は桜が綺麗に咲き誇り、いつもお母さんのお墓は桜の花びらがたくさん降り積もっている。
 見上げると真っ青に澄んだ空が見え、手を伸ばせば吸い込まれてしまいそうなほど。

 不思議と私の記憶がある限りこの日に雨が降っていた事は一度もなく、いつも澄み渡った空はお母さんがよく見えるように雲を避けてくれているよう。

 小さい頃はお父さんに肩車をしてもらい、思い切り手を伸ばせばお空のお母さんのところに行けるのだと、本気で思っていた。
 幼さゆえの純粋な疑問で、どうしたらお母さんのいるお空に行けるの?と父に聞いた事があり、曖昧な答えとともにとても悲しい顔をされた事は、今でも覚えている。


 毎年この日だけは、平日でも有休を使いお仕事を休ませてもらって、母方の祖父母と一緒に来ることが恒例となっている。

 今年は柊哉さんと一緒にこられると思っていたけれど、病院で聞いた噂によると白河病院でのオペは二十三日に予定されており、その翌日からはカナダで行われる学会に参加するため渡加するそう。

 今回のオペは日本ではあまり症例がないそうで、私も水島先生に聞いたけれど初めて聞く病名は一度聞いただけでは覚えることができなかった。

 本当に忙しくて一緒に来られないのだとわかり、不謹慎にも少しホッとしている自分がいる。
 柊哉さんは大変な時期だし、彼の事は今でも信じているけれど...。



 祖父母とともに降り積もった花びらを片付け墓石を綺麗にし、水を入れ替え花を手向けてから、手を合わせ目を閉じる。

 毎年ここでは近況報告をするのが通例だけど、今年は...
 今はとにかく毎日寂しさに耐え、仕事を一生懸命こなすので精一杯。報告できるような話は、今は何もない...。

 お母さん、私は幸せになってもいいの? 幸せに、なれるのかな...?