柊哉side

 伊織から連絡があったのは、あれから五日後のことだった。
 会って話がしたいと言われ、外で話す内容でもないので、その日の夜に彼の家を訪ねた。

 「ねぇ柊哉、話しをする前に一つ確認なんだけど、事故のことを知ってどうするつもりなの?」

 「...わからない。まだ、何も考えていない。ただ、このままだといけないと思っている」
 
 「...そう。じゃあ、俺が調べられた範囲で報告するよ?」

 伊織が聞かせてくれたのは、俺の仮説を立証するに値する確実なものだった。

 やはり、そうだったんだ...。

 俺の母親が起こした事故の被害者、亡くなった女性は、優茉の母親だった。

 三月二十一日は、俺の母さんの命日でもある。

 どうか違っていて欲しいという俺の心からの願いは粉々に打ち砕かれ、代わりに残酷な現実を突きつけられた。

 俯いたまま言葉を発しない俺に、勘のいい彼も確信した様子だ。

 「...まさかとは思ったけど、やっぱり被害者の宮野優佳さんって、優茉ちゃんのお母さん、なの?」

 「...あぁ、おそらく間違いない。優茉に命日を聞いてから、もしかしたらと思って、確かめずにはいられなかった」

 「...柊哉、どうするつもりなの?」

 「...俺には、彼女を幸せにする資格なんて...なかったんだな」

 「でも...」

 「優茉はまだ知らないんだ。もしもそれに気がついたら...。そうなる前に、離れるべきなんだろうな」

 俺たちは、出会ってはいけない運命だったのかもしれない。
 こんな残酷な事実を、こんなにも彼女を愛してしまってから知るなんて...

 もし神様がいたら、一生恨んでしまうだろうな。


 「伊織、忙しいのに悪かった。ありがとう」

 「待って柊哉!ちゃんと、一度優茉ちゃんと話をするべきなんじゃない?」

 自分の母親を死なせた加害者の息子を、愛してくれるはずなどない。
 彼女を悲しみから救うどころか、俺の存在自体が、優茉を傷つけ悲しませてしまう事になるのは確実だ。

 だったら、こんな残酷な現実は知らない方がいい。彼女に事実を話す必要は、ないだろう。
 それに、もしも優茉がこの話を聞いて、目の前で俺を拒絶されたら...
 絶対に立ち直れない。考えるだけで、臆病で弱い俺には怖くてたまらない。

 引き留める伊織の声を背中に聞きながら、俺は黙ったまま彼の家を出た。

 夜の街をあてもなくただ車を走らせ、どこに行くわけでもなく、結局一時間ほどでマンションに戻ってきた。
 しかし、今は優茉の顔は見れない。部屋には上がらず、そのまま実家へと足を運んた。