柊哉さんの様子が、少し前からおかしい事には気づいていた。なんとなく、よそよそしいというか、避けられているような...。
表面上はいつもと同じだと思う。だけど、それが逆に不自然で、取り繕っている様に見えてしまう。
考えてみれば、彼が初めて私に弱さを見せてくれたあの日からだったと思う。
あの時は、心の奥までを見せてくれた気がしてすごく嬉しかった。何もしてあげられないけれど、痛みを分け合えたことが嬉しかったのに...。
私、何か余計な事を言ってしまった...?彼に距離を置かれるような事を...
実際に柊哉さんが忙しいのは事実で、噂で聞いた話だと他の病院からもオペの依頼が来ていて、最近は外出の予定も多くさらに忙しくしているらしい。
この二週間ほどは、ほとんど一緒に過ごす時間はなかった。
帰ってきてもすぐに自室にこもってしまい、ベッドに寝た形跡があっても私が起きる頃にはもう姿はない。
先週からは、外出している事もあるからとお弁当も断られてしまった...。
先日のバレンタインデーも、彼が前に好きだと言っていたオレンジピール入りのガトーショコラを焼いてみたけれど、ありがとうと頭を撫でてくれただけで仕事に行ってしまい、一緒に食べる事も出来なかった。
季節は二月下旬に入り、朝は氷点下の冷え込みになる日もあるけれど、私にとっては花粉が気になり始める時期。
もう鼻水や目の痒みが出る日があるので、今日の結城先生の外来で薬をお願いしようと思っていた。
いつも通り勤務後の時間に予約を入れてもらっていたけれど、今日は少し長引いてしまったので制服のまま急いで外来へと向かった。
診察室に入ると、結城先生は一人でカルテの整理をしていたよう。
「お疲れ様、仕事長引いてた?僕もカルテ溜まってたからちょうど良かったよ。
あれ?今日は香月は一緒じゃないの?」
最近までは、いつも診察に着いてきてくれていたけれど、今日は彼が院内にいるのかもわからない。
「はい。お忙しいみたいで、最近は私もあまり会えていなくて...」
「あぁ、そういえば千葉の病院からオペの依頼を受けてるんだっけ?たしか、昔から院長同士が仲良くて、香月の幼馴染も医者として働いてるって聞いたな」
「そ、そうみたいですね。私も、詳しくは聞いていないんですけど...」
最近、そんな噂を私もちらっと耳にした。その病院長の娘さんは外科医をしていて、柊哉さんとは幼馴染で二歳年下。そして、二人は許婚同士で近々結婚するのでは...と。
「そうなんだ。元気ないなぁとは思ってたけど、やっぱりそのせい?それとも体調良くない?また発作起こす前にちゃんと僕のところに来てよ?
医者としてじゃなくて、香月の友人として話も聞くし」
「ありがとうございます」
「まぁ、宮野さんがあんな噂を鵜呑みにするような子だとは思ってないし、香月もそんな中途半端な事する奴じゃないと信じてるけどね」