柊哉side

 しばらくの間、存在を確認するように優茉を強く抱きしめた。彼女の体温を感じ、徐々に気持ちが落ち着いてきた頃一度だけキスをしてソファに降ろす。

 「実は...、私の母も、同じような状態だったそうなんです。
 みんなあまり母の話はしなかったんですけど、二十歳の誕生日の後、母方の祖父母とお墓参りに行った時、少し聞いたんです」

 「...同じ、状態?」

 「はい。病院に搬送されすぐにオペになったそうなんですけど、頭部の損傷が激しく、すでに手の施しようがない状態だったと。
 それでも、担当してくれた先生は諦めずに処置してくれたと、祖父母は感謝していました」

 「そう、だったのか...」

 「...そのご家族も、今は深い悲しみに耐える事で精一杯だと思いますけど、諦めずに可能性を探してくれた柊哉さんや先生方がいたから、その想いはきっといつか、前を向く為の力になると、私は思います」

 「優茉...」

 記憶がないとはいえ、彼女もかけがえのない存在を亡くした痛みを知っている。そんな彼女の言葉は、心の奥深くに空いた穴をそっと塞いでくれるようだった。

 「実は、もう少しで母の命日なんです。もし良かったら、今年は一緒にお墓参りに行ってくれませんか...?」

 「もちろん、いつかご挨拶に伺おうと思っていたから。命日はいつ?」

 「三月二十一日です。実は、私の誕生日の一週間後なんです」



 ...... 三月、二十一日?



 そんな偶然が、あるのだろうか...

 だって、その日は...


 「...柊哉、さん?」

 言葉が出ない俺を、優茉は不思議そうに見つめてくる。

 「...わかった。その日は、一緒に行こう」

 なんとか言葉を紡ぎ、優茉の手を引いてベッドに入った。

 本当に、偶然なのだろうか...
 あまりに残酷な仮説が頭に浮かび、優茉を抱きしめたまま動けなくなった。

 もしも、そうだったら...

 一刻も早くその仮説を確かめたくなり、彼女が眠ったことを確認して部屋を出た。