私の実家に到着し、車を降りるとおばあちゃんが玄関から出てきた。
「優茉ちゃんお帰り!香月さんもようこそいらっしゃいました。みんなで待ってましたよ、寒いから早く入ってね」
そう言いながら玄関まで私たちの背中を押すおばあちゃん。変わらず明るくお喋りなおばあちゃんをみると、心がホッとして自然と笑みが溢れる。
そんな私を見て、柊哉さんも優しく微笑んでくれた。
リビングへ入ると、大きなローテーブルにはたくさんのお料理が並べられていて、おばあちゃんがどれだけ張り切ってくれたのかが一目瞭然だった。
特製のお節料理に加え、私の大好物である卵焼きに唐揚げなど、大きなお皿が所狭しと並べられている。
そして、そのテーブルの前に座っているおじいちゃんとお父さんに、まずは一通りの挨拶をして私たちも二人の前に座った。
先日二人で買ってきた手土産は、おばあちゃんとおじいちゃんの大好物であるどら焼きと豆大福。
それを先ほど院長から頂いた物と一緒に渡すと、驚いたことに同じ和菓子店の包み紙だった。
包装を解き箱を開けてみると、中身はどら焼き。思わず二人で顔を見合わせ笑ってしまったけれど、「大好物だからいくつあっても嬉しいわ」とおばあちゃんは喜んでくれた。
そして、まずは食事をしながら近況などを話していたけれど、喋っているのはほとんどおばあちゃんとおじいちゃん。
和やかな雰囲気の中ほとんど言葉を発しないお父さんの方を時々ちらりと見るけれど、あまり感情は読み取れない。
食事を終えると、私はおばあちゃんとキッチンで後片付けの手伝いをしていた。
「優茉ちゃん、ずいぶん素敵な人見つけたじゃない!イケメンさんだし優しそうだし、その上お医者さんだったなんて!おばあちゃん達も安心だわぁ、これからは優茉ちゃんが発作を起こしてもすぐに診てもらえるんだもの」
「おばあちゃん...。今まで心配かけてごめんね、もう大丈夫だから」
「そうね!おじいちゃんも優介も心配していたけれど、香月さんなら安心して優茉ちゃんを任せられるわ!」
この歳になるまで全くそういう話はなかったし、昔から身体が弱かった私の事を、大人になった今でもずっと心配してくれていたんだね。
おばあちゃんの気持ちに、じんわりと目が潤んでくる。誤魔化すように俯きながらお茶の用意をして、目元を拭ってからテーブルへと運んだ。
優茉も座りなさいとおじいちゃんに言われ、柊哉さんの隣に座ると本題をきり出す。
「香月さんは大きな病院の跡取りなんだろう?相手がごく普通の一般家庭で育った優茉でいいのかい?」
「はい、家柄などは関係ありません」
「医者だと色々と忙しいだろう?優茉といる時間はあるのかい?」
「はい。なるべく多くの時間を優茉さんと共有して、これからの人生も共に歩んでいきたいと思っています」
おじいちゃんの言葉にも一つ一つ真剣に向き合って答える彼の横で、私も佇まいを正し頭を下げる。
「ほれ、優介も何か言う事があるだろう?」
優介とは私のお父さん。おじいちゃんに促されて、今までほとんど言葉を発していなかったけれど、ようやく口を開いた。