寒さで身体がぶるっと震え、毛布を被り直し丸くなっていると少しずつ意識が覚醒してくる。
部屋の明るさに気がつき目を開けると、いつものベッドだけど、隣に柊哉さんの姿がない。
あれ?と思い起き上がると、頭がずーんと重い感じがして思わず手で押さえる。
すると髪の毛がいつもの手触りと違う事に気がついた。
...え? ...あれ?
私、昨日天宮さんとご飯を食べてて...それから?
なんとか記憶を辿ろうとしていると、不意にガチャっとドアが開く音がした。
「優茉、起きてたんだ。おはよう」
「柊哉さん...」
「頭痛い?熱はなさそうだから、二日酔いかな?」
ベッドに腰掛けて私のおでこを触りながらそう言う彼は、シャツにスラックス姿だった。
「あの、これからお仕事ですか?」
「うん、ちょっと行ってくる。夕方には帰ると思うから、夜ご飯は何か買ってくるよ。優茉はゆっくり寝ていて」
「えっと...、あの、私、昨日の事が思い出せなくて...」
柊哉さんを見ると、なぜか目を逸らされてしまう。
「昨日、天宮さんと食事をしていた時、間違えてお酒を飲んだ事は覚えてる?」
「はい、そこまでは覚えています。たしかお刺身のわさびがすごく辛くて、天宮さんが渡してくれたグラスを飲んだらそれがお酒で...」
「なるほど。アルコールによるブラックアウトを起こしていたみたいだから、記憶が無いのも仕方ないよ。ちゃんとお店からは俺の車で帰ってきたから安心して」
「えっ?...柊哉さんの、車で?すみません、ご迷惑おかけしてしまったみたいで...」
「気にしないで。俺はもう行かないといけないから、ちゃんと水分だけは摂るんだよ?」
「あ、はい。わかりました」
ベッドの上で柊哉さんを見送ってから、スマホを見るともう十時を過ぎていた。
そして、天宮さんからメッセージが入っていて昨日グラスを間違えた事を謝る内容と、すっごく可愛かったよという内容...。
可愛かったって...?私、何かしたの...?
天宮さんにもご迷惑を掛けたようなのでお詫びのメッセージと、ついでに私の行動も聞いてみたけれど、すぐに返ってきた内容は"香月先生に聞いてみて♡"との事だった。
...どうしよう、全く思い出せない。それにハートマークって...?
うーんとしばらく考え込んでみたけど、重だるい頭では何も思い出せない。
無性にシロップたっぷりの甘ーいパンケーキが食べたくなり、着替えてキッチンへと向かった。
少し厚めに焼いたパンケーキに、メイプルシロップをたっぷりかけてテーブルに運ぶ。
一口食べただけでも、脳や身体中に糖分が染み渡るような感じがした。
少しだけ頭がスッキリしたので、片付けをしたあとお洗濯や家事を一通り済ませて、ソファでブランケットを被りぼんやりとテレビを見ながら、また昨日の事を思い出そうとしていた。
違和感は幾つかあったけれど、どれも理由がわからない。
まず髪の毛は、着替えていたし洗ったみたいだったし、シャワーは浴びたみたい。
じゃあトリートメントをつけ忘れたのかな?自分でドライヤーをする時はいつもオイルをつけて、毛先は癖があるのであえてくるくると巻きながら乾かしている。
でも今日はやけにストレートだった。まるで誰かにブローしてもらったみたいに。
あと唇も少しヒリついていた。一晩リップを塗り忘れただけでなるかな...?
それに柊哉さんが迎えに来てくれたって言っていたけれど、ベッドに寝た形跡が無かったのは何故だろう?勉強していてソファで寝ちゃったのかな...?
だめだ。どれもこれも全く思い出せないし分からない。
帰って来たら柊哉さんに聞いてみるしかないよね...。