玄関で柊哉さんが靴を脱いでいるところを、久しぶりに会えた嬉しさから思わず抱きついてしまった。
「おっと。優茉、ただいま」
「おかえりなさい、お疲れ様でした」
片手で私を抱きとめてくれて「なんか優茉、甘い匂いがする」と髪の毛や首の辺りをくんくんしている。
「え?ケーキを作っていたので、そのせいかな...?」
「作ってくれたんだ、ありがとう」
二人でリビングへいくと、柊哉さんはなぜかドアのところで立ち止まり、驚きに少し切なさが混ったような表情でフリーズしている。
「...柊哉さん?」
「これ...、全部優茉が作ったの?」
「...はい。大した物ではないんですけど、クリスマスらしい料理をと思って...」
「すごいな...大変だっただろう?今週は優茉達も忙しかっただろうし」
...気のせいかな?すぐに優しい笑顔になったけれど、さっきはどこか悲しそうな顔に見えた。
「もう少しでグラタンが焼けるので、着替えて来てください」
私がそう言うと、頭を撫で額にキスを一つ落としてから自室へと入って行く。
柊哉さんの反応には少しひっかかったけれど、とりあえず残りの料理をテーブルに並べ彼が戻って来たところでケーキも運んだ。
「...すごい、ケーキもお店のものみたい。こんなにたくさん、大変だったよね。ありがとう、優茉」
「いいえ。こういう料理はほとんど初めてなので...。彩とかあまり見た目は良くないですけど、レシピを見ながら作ったので味は大丈夫だと思います」
普段から二人ともお酒は飲まないけど、せっかくなので雰囲気を出す為に麻美と買い物に行った時に買ったノンアルコールのスパークリングワインをグラスに注ぎ乾杯する。
「ふふっ、久しぶりに一緒に食事が出来て嬉しいです」
「この一週間は忙殺されたな。優茉もお疲れ様」
「いえ、お弁当を渡せない日もあってすみません。ご飯食べてましたか?」
「いや、俺の方こそ受け取れない日もあって申し訳なかった。なるべく食べられる時にたくさん食べるようにしていたよ。また倒れるわけにいかないからね」と少しおどけて苦笑いする。
きっとこの病院に戻って来たばかりの頃に、過労で少し休んだ時のことを言っているんだろうけど...あの時はすごく色々な噂になっていたなぁ。
柊哉さんはお腹が空いていたようでたくさん食べてくれたけれど、さすがに作りすぎてしまいどれも残ってしまった。
「どれも本当に美味しかった、ありがとう。ケーキはあとでいただくよ」
お腹がいっぱいになってしまったので一旦ケーキは冷蔵庫に戻し、柊哉さんも手伝ってくれて一緒に片付けをしてから紅茶を淹れソファに座る。