週明け、北条さんが退院される日の朝、私は書類や今後の通院に関する説明のため病室を訪れた。

 「あら宮野さん!待ってたのよ?あの後どうなったのか気になって眠れなかったの!院長とはどんなお話をしたの?」

 「あ、ええっと... 」

 期待に満ちた眼差しでこちらを見られ、どう答えたらいいのか迷ってしまう。
 柊哉さんとの事は、まだ誰にも話していないから...

 「宮野さん、柊哉先生とお付き合いしているんでしょう?とってもお似合いの二人だわぁ。もしかして、院長には結婚の報告に行ったのかしら?」

 「えっ⁈」

 北条さんには全部バレているみたい...。もう話してしまってもいいかな?と考えた時、ガラッと扉が開いた。

 「ええ、北条さんのご想像の通りです。院長に婚約者である彼女を紹介に行ったんですよ」

 「しゅ、柊哉さん...」

 入って来たのは柊哉さんで、話が聞こえていたようで私が迷っていた事を全て話してくれた。

 「まぁ!やっぱりそうだったの!それで?香月院長はなんて?」

 「親として見守ってくれるそうです」

 「そう!良かったわねぇ!私も嬉しいわぁ、とっても素敵な退院祝いね」

 「ありがとうございます。認めてもらえたのは北条さんのおかげでもあるので、感謝していたんです」

 「あら、私何か言ったかしら?でも二人のお役に立てたのなら嬉しいわぁ。二人なら絶対に幸せになれると思うもの。どんな時でも、お互いに思いやる気持ちと愛を忘れちゃだめよ?」

 「はい、胸に刻んでおきます」

 そう言ってから、柊哉さんは今後の通院や注意点を話して部屋を後にし、私は書類の確認や説明を終えて、荷物をまとめるのを少しお手伝いした。

 「宮野さん、本当にありがとう。あなたにはお世話になったわ。柊哉先生と幸せになってちょうだいね。
 あ、結婚式には必ず呼んでね?それまで私も元気でいるから!」

 「いえ、こちらこそお世話になりました。北条さんの言葉には何度も元気をもらいました。どうかお身体にお気をつけて、まだまだお元気でいて下さいね」

 その後息子さんが迎えに来られて、病棟の出入り口まで二人を見送った。





 十二月も中旬に入り、本格的な寒さが訪れ朝はキンっと空気が冷え切っている。
 この時期になると、病院も師走の慌ただしさに追われる。

 外来もとにかく忙しかったけれど、年末年始に一時帰宅をされる患者さんも多く、そのための準備や手続きなど病棟でもこの時期は一段と忙しいようだ。

 私も最近は残業をする事も多く、柊哉さんは土日も関係なくずっと病院にいる様な状態が続いている。

 今日も終業時間から一時間ほど過ぎ、ようやく目処がたったところで帰ることになった。

 「もう少しでこのバタバタも落ち着きそうね。年末はいつもこうだけど、今年は優茉ちゃんがいるからだいぶ楽だったわ」

 「これをお一人でされていたなんて、私には到底できそうにありません...」

 「ううん!忙しかったけど、もっと色々みんなに手伝ってもらっていたから、ここまでの量はなかったわ」

 天宮さんとロッカー室で着替えを済ませ、途中まで一緒に歩く。

 「香月先生も忙しいでしょ?ちゃんとお家に帰って来てるの?」

 「シャワーや着替えを取りには戻って来られるんですが、ここ数日は病院に泊まっているみたいで」

 「そうよね、うちの旦那も最近はまともに一緒に食事も出来てないわ。本当にお医者さんは忙しいのよね」

 「そうですね。天宮さんは、寂しくなったりしないんですか?」

「うーん、そうね。初めの頃は確かに寂しかったというか、こんなにも忙しい事を知らなかったから驚いたけど。今は慣れたかなぁ。この時期を超えたら少しお休みできるしね。きっとあと一週間くらいの辛抱よ」

 確かに、外来もクリスマスを越えるといつも落ち着いていたなぁ。
 柊哉さんの身体が心配だけど、あと少しだから私も頑張らないと。